巻ノ三十六 直江兼続その十
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「攻め手が有利になります」
「そこまでおわかりとは」
「見て思ったことですが」
「お見事です、そのお話を聞いて思いました」
兼続は幸村の言葉から彼について感じ取ったことをそのまま述べた。
「貴殿は天下の傑物になります、敵にしたくありませぬな」
「そう言われますか」
「はい」
まさにというのだ。
「願わくばです」
「直江殿にそう言って頂けるとは」
幸村も言うのだった。
「冥利に尽きます」
「そう言われますか」
こうしたことを言ってだ、そのうえで。
兼続は主従をまずは城の本丸まで案内した、そこにこの城の主であり上杉家の当主上杉景勝がいる。
本丸も壁は高いがだ、それでも。
極めて質素でだ、十勇士達はこう言った。
「百二十万石の本丸にしては」
「どうもな」
「質素じゃな」
「上田城位じゃな」
「そうじゃな」
その質素さはというのだ。
「上杉家は質素というが」
「これ程までとは」
「本丸の上杉様の住まれる場所も」
「実にな」
「そうじゃな」
その本丸の質素さを見て言う。
「上杉家も質素というが」
「実際にですな」
「質素に尽くしていますな」
「そして無駄な銭を使わず」
「贅沢を戒めているのですな」
「武士は贅沢をせぬもの」
幸村はこのことをはっきりと言い切った。
「上杉家も然りじゃな」
「ですな、義を守り質素に徹する」
「よい家ですな」
「そしてその上杉家の主の景勝公とですか」
「殿はこれより」
「お会いしてくる、それで御主達はじゃ」
股肱の臣である彼等はというと。
「別の部屋で控えてもらう」
「殿が景勝公と会われる間は」
「その間はですな」
「別の部屋で控え」
「殿をお待ちするということで」
「そうしてくれ」
「その間はです」
案内役の兼続が十勇士に言う。
「菓子なぞどうでしょうか」
「おお、菓子をですか」
「菓子を下さるのですか」
「それは何よりです」
「はい、ぼた餅とです」
それにだった。
「団子があります」
「それは何より」
「我等皆もた餅に団子が好きでして」
「ではそうしたものを食しつつ」
「殿をお待ちしております」
「源四郎殿もです」
兼続は幸村にも声をかけた。
「殿とお会いした後で」
「菓子をですか」
「召し上がられてはどうでしょうか」
こう言ってだ、兼続は幸村にも菓子即ちぼた餅と団子も勧めるのだった。勧めるその顔は微笑んでいて穏やかなものだった。
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