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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十四話 クロプシュトック侯事件(その2)
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ずにいる。しかし、周りはみなそわそわしている。落ち着いているのは中将だけだ。ミューゼル大将でさえ不安げな表情をしている。グリューネワルト伯爵夫人が気になるのかもしれない。

中将がメックリンガー准将にブラスターを見せて欲しいと頼んでいる。こんな時によくそんな事を言えるものだ、感心するやら呆れるやらだ。中将は准将からブラスターを受け取り、よく手入れの行き届いた銃だとか、使い易そうだとか言っている。ブラスターに違いがあるのだろうか? 中将はどんなブラスターを使っているのだろう。残念な事に黒真珠の間で武装を許されるのは警備担当者だけだ。今度見せてもらおう。

「今、確認できました。クロプシュトック侯の宇宙船は先程出港したそうです」
メックリンガー准将の言葉は黒真珠の間を雷鳴のように響き渡った。
“では、爆弾が”、“早く逃げないと”などという言葉が聞こえる。私も逃げたいけれど、まずは養父を探さないといけない。

「ば、爆弾、はやく逃げないと。お、伯父上、早く逃げましょう。爆発する前に早く」
情けない声を出してブラウンシュバイク公に話しかけるのはフレーゲル男爵だ、みっともないくらい腰が引けている。そんなときだった中将が声を発したのは。

「フレーゲル男爵、動かないでいただきましょう。閣下を不敬罪で射殺します」
「!」
みな、ぎょっとして中将を見ている。先程までの喧騒が嘘のようだ。中将は穏やかな表情でブラスターを構え、フレーゲル男爵を狙っている。不敬罪? どういうこと?
「わ、私の何が不敬罪だ、こんなときに冗談をいうな」

「冗談ではありません。我々がまずしなければならないのは、皇帝陛下に危難を知らせ、安全な場所に退避していただくことでしょう。それをせずに自分だけ逃げようとするとは。クロプシュトック侯の不敬罪を話したばかりですよ、気付かなかったとは言わせません。男爵閣下には忠誠心が欠片も無い。万死に値するといって良い。」
「!」
穏やかな、笑みすら浮かべた中将の発言が黒真珠の間を流れていく。
「此処にいる全ての人が証人です。閣下には死を持って罪を償ってもらいます」

周囲は皆凍りついたように動けずにいる。ミューゼル大将、ケスラー少将、ミュラー少将も蒼白になっている。私はようやくわかった、何故中将がミュラー少将に“逃げる”という言葉を使うなと言ったのか、何故ブラスターを借りたのか。全てこれを想定していたのだ。

先日の皇帝陛下不予の一件以来、貴族の中にはヴァレンシュタイン中将に反感を持つものが多い。その急先鋒がフレーゲル男爵だ。何かにつけて中将を誹謗、中傷することで中将を押さえつけ、自分たちの力を印象付けようとしている。中将にとっては目障りだったはずだ。いつか処断しなければならないと考えていたのだろう。それにしてもこの爆弾騒ぎ
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