第40話
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る。ただでさえ疲労困憊な今、伝者の報告は気を失うに十分な内容で――
「ッ……」
歯を食いしばり意識を保つ。唇が切れたのか塩気を感じるが、今はそれがありがたい。
並みの女性、否。たとえ男性であっても賈駆の心境には耐えられなかっただろう。
彼女が自我を保てたのは、背後で悲痛そうに報告を聞く主の存在が大きい。敗戦が決まった地で奮戦する張遼達と同じく、賈駆にはまだやるべき事が残っている。
「今、両軍は?」
「華雄軍は突破した騎馬隊の将を食い止め、張遼軍は迂回路から現れた孫策軍と交戦中です」
「……ありがとう」
賈駆は心の底から華雄に、張遼に、そして董卓軍全員に対し感謝の言葉を呟いた。
「詠ちゃん、私が連合に降伏したと全軍に――「駄目よ!」っ!?」
「自分の身柄で皆の助命を願うつもりでしょう? そんなことボクが――いえ、皆が許さないわ」
「みんな?」
きょとんとした表情で聞き返す董卓。いつもの賈駆なら、その愛らしい姿に悶えていたかもしれない。
しかし生憎、今は平時には程遠い状況にある。時間も差し迫っている為早く説得しなければならない。
「策が成らなかった時点でボク達の敗北は決定したわ、じゃあ何で華雄達が戦い続けていると思う?」
「そ、それは」
「目を背けないで! 皆貴女の為に戦っているのよ、……わかるでしょう?」
「……」
顔を俯かせ、無言で肯定する。
自分に対する想いに鈍い董卓だが、嫌でも理解していた。
そもそも今回の戦は簡単に回避できたのだ。無条件降伏という形で……
それを許さなかったのは賈駆を始めとした家臣、そして民達である。
董卓が相国として洛陽に身を置いていた期間は短い間ではあるが。自身が政治利用される中、彼女はせめて洛陽の民達に報いようと活動した。
宦官達に搾取され疲弊していた住民を、相国の立場を利用して助け続けたのだ。
今では洛陽で彼女を知らないものは居ない。道を歩けば誰もが笑顔で挨拶を、子供達は遊んで欲しいとせがむ。
董卓は――洛陽の民に愛されているのだ。
其処に来て今回の騒動、悪逆董卓を討つべく連合がやって来る。
洛陽の民たちには青天の霹靂な出来事だ、彼等は相国である董卓の庇護の下、生を謳歌していたのだから。
そんな民達が董卓を見捨てる筈も無く、今回の戦に発展した。
「連合が月の存在を許すはずないわ。命を取られ、汚名を着せられるのがオチよ。
真実を知る民は、力で抑えつければ良いと考えて……ね。貴女がどれだけ愛されているかも知らずに」
「……」
「月が本当に皆の事を想っているなら、彼らの気持ちを無下にするはず無い。
そうでしょう? ……月」
「……うん」
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