第40話
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洛陽にある謁見の間。戦が始まったばかりの頃、董卓に連なる文官達で溢れていたそこも、今は閑散としている。
「……」
「……」
静けさが支配するその場所に居るのは、現在董卓と賈駆の二人のみだ。
他の者達は水関が突破された祭に、敗色濃厚として避難させている。董卓に忠誠心を抱いていた彼等は渋っていたものの、敬愛する彼女の言葉が後押しとなり、後ろ髪引かれる思いでこの場を後にした。
「詠ちゃん――」
「ボクは避難しない」
董卓の言葉を遮る形で賈駆が言葉を発する。
長い付き合い故に、董卓の考えは手に取るようにわかった。この心優しい娘は連合の刃が喉下に突きつけられても、最後まで誰かを案じ続けるだろう。
そのどこまでも優しい想いが、今は煩わしい。
「戦はまだ終わっていないわ、ボクの迎撃策は正直穴だらけだけど……あの二軍の力なら時間を稼ぐには十分よ!」
言葉を発しながらも、賈駆は地形図を眺め思考を止めない。
虎牢関の手前で連合を食い止めるという迎撃策、真の狙いは効果的な策を考える為の時間稼ぎだ。
そもそも数に劣る自分達が、平地で連合を相手取るには限界がある。
即興で作り上げた迎撃策により少しの間圧倒出来るだろうが、連合が形振り構わない形で本腰を上げればお仕舞いだ。
たとえば、犠牲を省みず人海戦術的な騎馬による突撃を仕掛けてきたら――
――させない
厳しい表情で兵馬駒を動かし続ける。策を練る者は自分ひとりになってしまったが、諦めるわけにはいかない。
戦力差、一騎当千の敵将、そして――此方の地の利を無に帰す自動衝車。考えることは山済みだ。
――これをこう、いやでも……あ、これなら!
賈駆の脳裏に一つの策が思い浮かぶ。今までの如く賭けに近いものだが、敗色濃厚なら一筋の光明に身を委ねるしか生き残る道は無い。
急いで策の穴を埋めていく、願わくばこれを二軍に託すまでこのまま――
「報告! 袁紹軍の騎馬が華雄様の軍を突破!! 迎撃策は――……失敗です」
「――ッッ!!?」
手に持っていた駒が零れ落ち、配置させていた董卓軍の駒を薙ぎ倒していく。それは皮肉なことに今の状況と、賈駆の心境を表していた。
彼女は無神論者だが、この時ばかりは祈ったことすら無い神を心の中で罵る。
自分達が、自分が何をしたというのだろうか。ただ主の隣で采配を振るいたかっただけだ。無欲な主に代わり功を得ながら同士を集め、彼女の徳で疲弊した民に少しでも笑顔を、脅威となる者達は自分達で退け。
不幸が蔓延するこの大陸で、少しでも幸せに暮らしたかっただけだ。
怒り、憎しみ、悲しみ、自己嫌悪、そして絶望。
様々な負の感情が、賈駆の意識を刈り取ろうと迫
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