第6章 流されて異界
第139話 失明
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と、冬枯れの芝生に覆われた広場との境界線には低木の植えられた花壇が行く手を遮っている。
こんな場所を、両手が使えない、更に一時的な可能性が高いとは言え視力を失った俺が普段通りに歩く事が出来る訳はない。
故に、弓月さんの気遣いにはとても感謝している。
それに……。
「そもそも、ハルヒが俺の事を気にしているのは、未だ恋愛感情には至っていないモヤモヤの所為。その正体が判らないから、俺に対して妙に突っかかって来てみたり、絡んで来たりしているだけ。おそらく、この場にハルヒが居て弓月さんが俺に手を貸した時にアイツが感じるのは、何故、自分は何も考えずに手を差し伸べられなかったのだろう、と考える事ぐらいや」
この場に居るもう一人のツンデレ体質の少女に、敢えて聞かせるように話しを続ける俺。それに、どうにも敵と認識するのが難しい相手だけに、敵愾心をムキ出しにして……と言う訳にも行かず、まるで友人に対するような軽口風の対応で。まして今回、俺が重傷を負った理由は、俺が犬神使いの封印に固執したのが原因でもある。これは、ルルド村の時の名づけざられし者と戦った時とはやや事情が違うでしょう。
確かに、あの犬神使いに関しては封じた方が良い相手だったと思う。しかし、自分の生命と天秤に掛けてまで行わなければならない事であったか、と問われると……。
この場に這い寄る混沌が分霊を送り込んで来る理由。当然、分霊だけで為せる事は少ない。まして場の状況を混乱させるだけが目的ならば、もっと早い段階の方が効果的だった。既に状況は落ち着いて居り、あの場面から犬神使いの青年が何らかの策を用いて召喚作業を成功させる方法はなかったと思うし、更に言うと最早逃げ出す事も無理だと言わざるを得ない状況だったでしょう。
そう考えると、あの犬神使いを現在進行形で行われている名づけざられし者に因る、アラハバキ召喚の生け贄として捧げる為に現われた、と考えるのが妥当だと思う。
ヤツの目的と、俺の目的。怨みなどの負の感情に囚われた魂の解放と言う意味では完全にバッティングする目的同士がぶつかったのです。それも、無防備な状態で戦場のど真ん中で棒立ちとなって仕舞うような形で……。
自分では正しい判断だったと今でも胸を張って言える心算ですが、多分、他の人間から見ると、もっと良い答えがあったのではないか、……と言われる事は間違いないでしょう。
其処まで固執しなければならない目的だったのか、と。
言葉でのみ這い寄る混沌の分霊に答えを返し、俺と居ると頼ってばかりだ、と言った少女の身体を支えられ、目的の樹木の前まで移動する俺。
……もっとも、これではどちらが相手の事を頼ってばかりなのか分からないが。
「すまんな、弓月さん。せやけどもう大丈夫。後は一人ででも出来る」
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