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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第139話 失明
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気配はますます強く、最早、現実の崩壊は時間の問題かと思われる状況。

 普通の人間なら絶対に辿り着く事のない思考の到着点。いや、おそらくタバサに召喚される前の俺でも、この結論に到達するまでにはもう少し逡巡と言う物を抱いたはず。
 僅かに憐憫(れんびん)にも似た感情が心を支配し掛けるが、それを無理に呑み込む。何故だか妙に鉄臭いその感情に皮肉な笑み。心が血を流す事だってあるのだろう。
 但し、それがどうした。能力がどうであろうと、身体中のすべての細胞が既に以前の自分とは違う存在へと置き換えられていたとしても、記憶が何人分の人生に及ぼうとも、心は人間のままだ。
 後ろを見るな。今は前だけ向いて居れば良い。振り返って、失った物を後悔するのはすべてが終わってからでも出来る。

 そう考え、動きの悪い首を前に向かせる俺。その時、俺の前に立つふたりの少女の内、背の低い方が振り返り――
 二度、俺の傍を何かが走り抜ける気配。同時に、神速を超えた刀が発する衝撃破が大地に溝を刻んだ。
 ……普段はそんな物を作らない彼女なのだが、矢張り今、この時のさつきは怒っている。そう言う事なのだろう。

「さぁ、斬り落として上げたわよ! これで文句はないでしょう!」

 さっさとその腕を使えるようにしなさい!
 さつきはさつき成りに俺の事を考えて、腕を斬り落とす事を最初は拒否したのでしょうが……。俺の立場から言わせて貰うのなら、それは要らぬお節介。そもそも現状で使える戦力を遊ばせて置く余裕がある、と考える方がどうかしている。

 組織を完全に死亡させる訳には行かないので、ある程度先の方まで通わせて居た血液が吹き出し掛けるのを、精霊の守りを傷口に集中させる事により、無理矢理に抑え込む。
 そんなに長時間持たせる必要はない。その間は仮死状態に近い状態で維持すれば良い。まして、これから行うのは仮の腕の再生。本格的な治療は俺が行うよりも、有希に頼んだ方が確実でしょう。

 そう。今は時間が惜しい。何故ならば、今は術的には素人の犬神使いがアラハバキ召喚を行って居た時とは訳が違うから。ヤツ……この犬の遠吠えが繋がるかのような召喚の術式を行使して居るヤツが望むのなら、ありとあらゆる世界に通じる門を開く事が出来る……と言われている存在がアラハバキ召喚を行っている状態。おそらく、この召喚作業が失敗に終わる可能性はゼロ。まして、その召喚の儀式を行っている場所の中心が何処なのか分からない以上、今から俺たちが阻止に動くのは難しい。
 今は使える戦力を充実させて、次の動き――召喚されたアラハバキを再封印する準備に費やすべき時間だと思う。

 冷静な頭でそう結論に到達する俺。
 先ずはありがとう、と言った後に、

「嫌な役を押し付けて終ったみたいやな。すまなんだ」

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