第6章 流されて異界
第139話 失明
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」
鳴弦の弦音が高く響いた直後、前方で大きな物が倒れたような音が続いた。
そして同時に、大きな熱を持った何かが大地に広がり、その瞬間に、それは得体の知れない何モノか、から、単なる炎へと変化した事が、視力を失くした事で鋭敏に成った感覚が教えてくれた。
「やれやれ、嫌われた物ですね」
しかし、その直ぐ後に、まったく別の個所に立ち上がる黒い気配。方向と距離から考えると、残された別のかがり火の炎を触媒に使用している事は想像に難くない。
砂利を踏みしめながら近付いて来る気配と鈴の音色が、俺の直ぐ傍らにて足を止める。その位置は俺と、その黒き気配の間。おそらく炎の巨人から、動けない……消耗し過ぎて、動きの鈍い俺を守る位置に立ち塞がってくれたのだと思う。
かがり火を正面に見据え、静かに息を吐き出しながら、ゆっくりと弓を打ち起こして行く彼女の姿が見えるような気がした。いや、現実には自らの直ぐ傍に立つ、黄金色に光り輝く人型を感じているだけの状態なのだが。
そう。普段は物静かで清楚。感情を強く表に出す事のない彼女が、この時はかなり強い怒に彩られた感情を必死になって押さえ込んでいる。そう言う部分まで今は強く感じる事が出来るようになった……と言う事。黄金色は彼女……弓月桜を指し示す土行の精霊たちが、彼女の感情の高ぶりに刺激され活性化した証。
但し――
「あ、いや、弓月さん。多分、大丈夫や」
今にも鳴弦を放ちそうな弓月さんを制する俺。確かに、この邪神自体が何を考えているのか分からない相手だけに、絶対に安全だ、と言い切る事は出来ない。
しかし……。
「あの偽良門の犬神使いを封じた以上、今のソイツは敵ではない……と思う」
ヤツ……現在は炎の巨人と言う姿。更に、今は一時的に目が見えない状態なのではっきりとした事は言えないが、声には確かに覚えがある。多分、ハルケギニアではゲルマニアの皇太子ヴィルヘルムと名乗り、この長門有希が暮らして来た世界ではオーストラリアからの交換留学生ランディと名乗った青年の方だと思う……のだが。
多分、ヤツに取って俺は積極的に。どうしても、倒さなければならない敵と言う訳ではない――可能性が高い。
「俺が深手を負った理由は、犬神使いの青年を封印する事に俺が拘ったから。それで、アイツを殺してアラハバキの封印を破る糧にしようとした自称ランディの術の効果範囲内に留まって終った」
其処に留まる事が危険な事だ、……と言う事は最初から理解しながらも。
もっとも、もしかすると俺を術の効果範囲内に納めたが故に、あれほど強力な術を行使して来た、と言う可能性も否定出来ない。……のですが。
それでも矢張り、現状ではヤツが積極的に俺を殺す理由は存在しないはず
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