第6章 流されて異界
第139話 失明
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先ほどまで確かに存在していた、真円に僅かばかり足りない十六夜の月。吐く息が白く濁る夜に相応しい、煌々とした冷たい笑みを投げ掛けていた艶やかなその姿は既に見えず。
そして紅蒼、ふたりの女神を取り巻くように瞬いていたはずの星々も消えた氷空……。
其処に響く哀愁に満ちた犬たちの叫び。そう、それはまるで世界自体を呪うかのような哀しみに満ちた声。
その声がひとつ響く度、ひとつ分だけ余計に濃くなって行く闇の気配。
そして引き寄せる。……引き寄せられる異界。
「おやおや、あの程度の相手を守る為に、其処まで被害を受けて仕舞われましたか」
未だ視力の回復しない俺。その俺の前方から掛けられる妙に馴れ馴れしい……そして、聞き覚えのある男声。但し、その声が発せられた方向に人の気配はない。
存在するのは濃い闇の気配のみ。紅く、赤く、ふるふると蠢く闇の炎。
そう、それは正に圧倒的な魔力と底知れぬ知性を持つ存在。古より語り継がれ、人々が恐れおののいて来た闇の支配者に相応しい気配。
しかし――
しかし……。溜め息混じりにそう吐き出す俺。これは空虚。但し、同時に怒りの感情でもある。これが自らの力の無さを実感させられる瞬間であり、今までの……。そして、これから先、俺が為す事、目指す事がすべて無駄なんじゃないかと思う瞬間でもあった。
そう、それはヤツが口にした『あの程度の相手』……と言う部分。こんなヤツに選ばれたと思い込んで生命を落とす人間が居る事が、流石に浮かばれないと思うから。そう感じたから。
コイツ……這い寄る混沌も、邪神と言う名の一種の神だから。
先ほど、光と共に宝石へと消えて行った犬神使いの青年の姿を、皮肉に頬を歪めながら思い浮かべる俺。これではあの犬神使いが企てた邪神召喚の為に死んで行った人間たち。操られた犬たちのすべてが浮かばれない。
ただ、そうかと言って、そんな奴に能力を与えたこの邪神がすべて悪いのかと言うと、そう言う訳でもない。むしろ、そう言うお手軽な方法で能力が得られる事を望み、その能力を使い熟す事もなく溺れたあの 犬神使いの方にこそ、責められるべき理由があると思うから。
ヤツ……這い寄る混沌と言う邪神は、別に無理矢理に望みもしない能力を与える神ではない。まして、普通の場合は能力を人間に与える為に甘言を耳元で囁いたり、策を弄したりする訳でもない。
すべてはその能力を得た人間が最初に欲したから与えた。ただ、それだけに過ぎない。
故に、その能力を与えた人間に最終的に敗れる。そう言う世界すら存在したらしい。
そう考えた刹那!
「下がれ、魔!
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