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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十三話 クロプシュトック侯事件(その1)
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ロプシュトック侯ですか、どちらでお会いになったのです?」
妙だな。エーリッヒの顔から笑みが消えた。緊張しているのか?
「会場の入り口です。出て行くところでしたね」
「間違いありませんか、ケスラー少将」
「ええ、間違いありません」
ケスラー少将もエーリッヒの緊張に気付いたのだろう訝しげにしている。ミューゼル大将もフロイラインもだ。
「どうしたんだ、エーリッヒ?」
「後だ、ナイトハルト。ケスラー少将、クロプシュトック侯といえばここ三十年ほど宮中からは遠ざかっていたはずですが?」
「ええ、中将の言うとおりです。陛下の御即位以来、宮中からは遠ざかっていました。それで珍しいと……」
エーリッヒはじっと考え込んでいる。俺たちの視線などまるで気にしていない。どういうことだ? クロプシュトック侯がどうかしたのだろうか?陛下の即位以来、宮中からは遠ざかっていた? なにが引っかかっているのだろう。
急に周囲がざわめいた。周りを見渡すと、ブラウンシュバイク公がこちらに向かってくる。公の後ろにはフレーゲル男爵もいる。ミューゼル大将が形のよい眉をしかめるのが見えた。無理も無い、フレーゲル男爵は俺も嫌いだ。そのときだった、エーリッヒがブラウンシュバイク公に近づき話しかけたのは。
「ブラウンシュバイク公、小官はヴァレンシュタイン中将です。少しお時間をいただきたいのですが」
「無礼であろう。中将になったからといって、平民の分際で伯父上に話しかけるとは」
フレーゲル、何様のつもりだ。鼻持ちなら無い奴だ。ミューゼル大将が嫌悪の表情を浮かべる。
「公爵閣下、大事な話なのです」
「下がれ、下郎」
「待て、フレーゲル。ヴァレンシュタイン中将、わしに何の用だ」
周囲もこちらを見始めている。フレーゲルはそれを意識してやっているようだが、さすがにブラウンシュバイク公はまずいと思ったようだ。陛下に万一の事があれば帝都の治安はエーリッヒが預かる事になる。エーリッヒを敵に回せばどうなるか、オッペンハイマー伯、リッテンハイム侯、クラーマー憲兵総監を見れば明らかだ。
「有難うございます。最近、クロプシュトック侯が公爵閣下の御屋敷を訪ねなかったでしょうか?」
「それがどうかしたか」
「訪ねたのですね」
「うむ」
「何がいいたいのだ、クロプシュトック侯が伯父上を訪ねたとて貴様には関係なかろう」
「その折、クロプシュトック侯は公爵閣下に高価なものを贈られませんでしたか?」
エーリッヒはフレーゲルの邪魔など全く相手にしていない。何が有るんだ一体。俺もミューゼル大将もケスラー少将もいぶかしげに顔を見合わせた。
「それがどうかしたか」
ブラウンシュバイク公は少し嫌な表情をしている。衆人の前で話したくない話題なのだろう。周囲の人間が少しず
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