十五節:チヨメの実力・上
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の笑みは、大抵の人間ならば……惚れる惚れないは別にしろ、思わず見とれてしまう事請け合いである。
少しの間アイテム欄をチェックした後、アスナはとあるアイテムをオブジェクト化する。
『走れる場所まで走って、燃え尽きて死ぬ』という壮絶な意思の元、最前線でレイピアを手に駆けている彼女から想像もつかないぐらい、正に喜色満面になっている『理由』が手元に現れた。
それは有ろう事か、値段が僅か一コルという破格の安さを誇る、ある意味で第一層の名物な丸く大きな『黒パン』であった。
資金面でも大いに苦労しているであろう、第一層の主街区《始まりの街》から頑なに出ようとしないプレイヤー達でも……否、それこそ誰でも買える様な “King of 安価” な食事だ。
……もしかして、彼女はその味を個人的に気に入っている為に、此処で嬉々として持ち出したのか。
「タップして、その後クリック……と」
次に彼女は、もう少し大きければ蜂蜜でも入っていそうなデザインの、素焼きの茶色い壺を取り出した。
タップする事で蓋が少しずれ、中から滑らかな質感の白いクリームが顔を除かせる。
指を紫色に淡く光らせた《対象指定モード》で先の黒パンをクリックすれば、壺の中身が有る程度減るのと同じくしてたっぷり―――どころか “ゴッテリ” と、パンの上へ件のクリームが盛られた。
そこでアスナの口角の上がり具合は最高潮へ達し、一瞬の溜めを置いてから……大きくパンへとかぶりつく。
途端、彼女の瞳が第三者から見て、この上ない位に輝きを増した……気がした。
「はむっ……! ……ん〜っ♪」
ボソボソとして食感の粗い筈の黒パンへ、アスナが喜びを隠さず次々パクつくのは、どうも件の “クリーム” に秘密があるらしい。
……実はこの白クリーム、 キリトとチヨメの初対面時に対外が受注していたクエスト【逆襲の雌牛】のクリア報酬なのだ。
なんでもこのクリームは丁度良い甘さと見た目通りの滑らさ、そして後引かせる一番の要因であるヨーグルトに似た爽やかな酸味も相俟って―――まるで牧場で丹精込めて育てられた牛の乳から作る、どっしりとした質感で食べ応え抜群な『田舎風ケーキ』に変身してしまったかの様なんだとか。
アルゴからの勧めでクエストを受け、始めて口にしたときから、アスナの大のお気に入りなのだ。
「む……! むむ……むぅ〜」
ちょっとした休憩のつもりなのか、一個目を食べ終えてすぐにストレージへ壺をしまおうとし……されど後ろ髪を引かれる想いで、指を出しては引っ込めてを繰り返していた。
と……丁度十回ぐらい同じ事を繰り返した、その時。
「! ……コレは、剣の音…
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