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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十一話 母の祈り、母の言葉
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りを受けるはずだ。それを心配して視線を移したが、明日奈は美幸の視線に気が付くと、微笑んで小さくうなづいた。
それでも、ということなのだろう。美幸は微笑みを返すと、ユウキのナビゲーションに従って歩き出す。

目的地である月見台にたどり着くまでに、ユウキは何度も、これまでとは違う声色の声を漏らした。魚屋やパン屋、神社、郵便局、住宅街の、大きなレトリバーの居る家や、よく手入れされた楠がある家などを見て、嘆声を漏らし、一言、二言と呟いていく。
そんな風に歩いている内に、あるいは、初めからあった予測に、明日奈と美幸は確信を持っていた。ここは、かつて彼女が……紺野 木綿季と、家族が暮らしていた街なのだ、と。

『その先の曲がったところにある、白い、小さな家の前で止まって……』
そう言ったユウキの声は、小さく震えていた。月見台の坂を上り切ったあたり、葉を落としたポプラの立つ公園の前に、他の家と比べるとやや小さめな、けれど広い庭を持った家があった。白いタイル張りに緑色の屋根のその家は、青銅製の門扉によく見るとサビが浮き、玄関先のボロボロになった鉢植えに茶色く果てた植物があること、玄関先にも土埃が溜まっていることから、そこに住む家人が、もう家に戻らなくなって久しいのだとわかる。

当然だ、かつてこの家に暮らしたのであろう家族はすでに一人を残すのみとなり、その一人も、もはや病院の無菌室から出ることはかなわないのだから。
左右の家からあたたかな団らんのオレンジ色が漏れる中吹いた冷たい冬風が、どこかそのさみしさを訴えてくるこの家の悲嘆の声のようで、美幸は無意識に胸の前で手を組んだ。

「ここが、ユウキのお家なんだね……」
『うん……もう一度、見られると思ってなかった……』
プロープの銀色の基部に優しく触れながら言った明日奈の言葉に、震えた声でユウキが答えた。すぐ目の前の公園の石垣に並んで腰かけ家の全景がカメラに入るようにすると、三人はしばらくだまって、その家を見つめていた。夕日の残照が、空を最後の暁色に染めて消えていく。ユウキは少しすると、ぽつり、ぽつりと話し始めた。

『この家で暮らしたのは、ほんの一年足らずだったんだけど、でも、あの頃の一日一日のことは、ホントに、よく覚えてるんだ。ここの前はマンションに住んでたから、僕も姉ちゃんも庭が有るのがうれしくてさ、ママは感染症を気にしてあんまりいい顔しなかったけど、いっつも姉ちゃんと走りまわって遊んで、遊び終わったらママがクレープを焼いてくれた。ボクも姉ちゃんも、ママのクレープが大好きだったよ』
「クレープ?」
美幸が問い返すと、ユウキは嬉しそうに返した。

『うん!ママの十八番。色んなクレープの作り方を知ってたんだよ、果物とクリームの普通のとか、ハムとチーズのとか、オレンジのシロップに浸したのと
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