MR編
百四十一話 母の祈り、母の言葉
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歩き出す。普段から杏奈は涼人と口喧嘩をするが、普段の彼女はこんなにも冷静に苛立ち、それを突きさすようにぶつけるような怒り方はしない。その所為だろうか、涼人には彼女を追うことも、言い返すこともできなかった。
いや……
「……図星かよ」
自分はあるいは、彼女の言う通り彼女たちのことを見下しているのだろうか……?人より少し違う経験をした自分の人生の上に胡坐を掻いて、尊く、幸せな時間を自分なりの精一杯で過ごしている彼女達を……?だとしたら……
「くそっ……」
吐き捨てるように言った自分への悪態は、無人の廊下の真ん中では、誰にも聞こえはしない。ただ、すでに遠く離れた杏奈が悔し気に、小さな声で言った。
「……らしくないのよ」
────
ユウキ、明日奈、美幸の三人が目的地である相鉄本戦、星川にたどり着いたのは、すでに五時半を回ったころだった。本当ならもっと早く付くところがここまで時間がかかったのは、学校からの通り道、中央線、山手線、東横線、相鉄本線と乗り継ぐ間に、何度もユウキの気になる物に寄っていっては近くでそれを見るといった寄り道を繰り返していたからだ。時間はかかったが、三人にとってはそれが楽しかった。
ユウキは何を見ても楽し気に反応してくれたし、明日奈と美幸の二人もそれに同調したり、簡単な解説を加えていったり、それが面白く、電車の中はともかく、それ以外の場所では周囲の目も機にせずプロープの向こうのユウキと会話しながら移動して行った。
ユウキが目指してほしいといった場所、神奈川県横浜市保土ヶ谷区は、横浜であるという事実を一寸忘れてしまいそうなほどに、緑と住宅街の目立つ丘陵地だった。元来、多摩丘陵の南東端に位置するこのあたりは、関東平野の中でも起伏に富んだ地形をしているらしい。
数年前に改修が終わったという高架化工事のためか、高い位置にある駅前のロータリー上の歩道橋からは、夕焼け色に染まった空がとても広く、澄んで見えた。
「きれいな街……」
「うん、良い所だね、ユウキ?」
冷たくも、どこか清らかに感じるそのその街の空気を吸い込みながら、明日奈は明るい調子でプロープに語り掛ける、が、それに答えたユウキの声は、どこか申し訳なさそうに聞こえた。
『うん……ごめんね、アスナ、サチ。ボクのわがままにつき合わせちゃって……その、二人とこお家の人とか、大丈夫?』
「ふふ、うん。さっきちゃんと連絡したから」
「私も!それに、遅くなるのなんていつものことだもん!」
明日奈も美幸も微笑んで答えたが、美幸の方はすぐに気が付いた、明日奈の言葉は真実ではない。彼女の家が門限(たとえ体が家にいるとしてもだ)に厳しいのは仲間内では有名だ。今は五時半、普段から六時にはログアウトしているし、六時半には食卓についていなければ彼女は母親から叱
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