MR編
百四十一話 母の祈り、母の言葉
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名字を呼んだ途端に、自分の名前と勘違いしたのだろう。ユウキがそれに反応して声を上げる。つられたように美幸もこちらに気が付いた。
『あ!サチ!』
「えっ?あ、その機械……」
「あー、うん、そういうこと」
「……ふむ?どういうこと、なのかな?」
両手をすくめて問う教諭に、明日奈は苦笑しながら説明を始めた。
この、中等部の現国を担当するこの男性は、白髪が似合う初老の男性だ。
一度定年退職した後、この学校の設立に当たって募集された教師枠に手を上げ、再就職したのだそうだ。年齢は年齢だが、機械には十分に精通しており、校内各所に設置された各種端末を器用に操って見せる。
そんな相手なので、およそこの頼みごとにも抵抗は薄いだろうと予想していたのだが、それでもやはり、突飛な提案なだけに、話をする際は緊張した。が、大よそ明日奈の予想通り、教諭は湯呑を傾けながらうなづき、快諾してくれた。
「うん、いいでしょう。えぇっと?生徒さんの君は、なんと言ったかね?」
カメラに向けて微笑みながら、教諭が尋ねる。突然自分に振られたことに少し驚いたような声を出したユウキだったが、即座に元気の良い声で答えた。
『ゆ、木綿季、紺野木綿季です!』
「うん、木綿季くん、良かったら次からの授業も出てきなさい。今日からちょうど、芥川のトロッコをやるんでね、あれは最後までいかんとつまらんから」
『は、はぃっ!』
思わぬ言葉に明日奈自身も驚いたが、同時に喜んだ。やはりこの人に頼んでよかった。
「失礼しました!」
『しつれいしましたぁ!』
「ふふっ、失礼しました」
二人……いや、三人でそろって職員室を出ると、明日奈とユウキが同時にため息をつく。そんな様子を見て、美幸が楽しそうに笑った。
「よかったね、明日菜、木綿季さんも」
「ホントだよ〜」
『うん、ありがとうアスナ!それにさ……あ、えっと』
「あ、そっか」
言い淀んだユウキに、サチが気が付いた。そういえば自分は、向こうの名前は彼女に教えたがこちらでは名乗っていない。
「えっと、改めまして。私は、美幸、麻野美幸って言います。呼びにくいようなら、明日奈もそう呼ぶから、サチでも良いです。よろしくね、木綿季さん」
言いながら彼女はカメラと向き合って、いつも浮かべる、小さくはにかむような可愛らしい笑顔を浮かべる。
『うん!よろしくお願いします!あのね、ボクも、ユウキでいいよ。「さん」なんて、なんだかくすぐったいから、さ』
「ふふっ、うん。ユウキ」
────
「それじゃあ、また後でね、明日奈、ユウキも」
「うんッ」
『後でねー!』
放課後を一緒に帰宅する約束をして美幸と別れた明日奈とユウキは、そのまま教室へと向かった。
教室に入ると、明日奈の友人達が肩の奇妙なマシンに首を傾げ
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