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SAO─戦士達の物語
MR編
百四十一話 母の祈り、母の言葉
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少しばかり不安そうな、どこか影のある声色だった。明日奈は少しいぶかし気な顔になると、首を傾げる。

「ホントは、今聞くのはよくないかもって思ったんだけど……アスナ、昨日ウチから変える時……リョウと、何かあった?」
「ッ……」
これが恋愛小説や何かなら、それは何かしらの修羅場の始まりを意味するセリフのように聞こえなくもない、しかし今の明日奈にとってはその言葉は全く違う意味を持つ。
「なにかあったか」と言われれば、あった。昨日涼人に言われた一言一句は、今も明日奈の心を杭のように縫い付け、痛めつけているのだ。
しかしそれを目の前の少女に相談して良いのかどうかに、一瞬だけ彼女は躊躇う、彼女は涼人のことを心から慕っている、そんな彼の、聞きようによっては心無いともとれる発言を彼女に伝えてしまっていいのか、美幸の心が、自分と同じように、ユウキへの気持ちと涼人への気持ちで板挟みになってしまうのではないか……そう感じたからだ。しかし……。

「……明日奈……」
その思考を、ほかならぬ美幸が遮った。

「お願い、話して、ほしい……」
「……サチ……」
躊躇いが意味のない事であることは、この言葉によって知れてしまった。彼女は覚悟をした上で、そして何より、何かしらの予想をした上で何かがあったのだと確信して自分に語り掛けている。ごまかしは通じない。

「……じつは……」
「…………」
明日奈は昨日車の中で会ったことを包み隠さず、かいつまんで美幸に話して聞かせた。話すうちに美幸の顔には、二つの表情が浮かんだ。一つはやはり、という確信の表情。そしてもう一つは、どうしようもない、後悔の表情だ。

「私、リョウに絶対言っちゃいけない事言っちゃったよね……リョウの言ったこと、納得はできないけど……それでもそのことだけでも、ちゃんと、謝らないと……」
「……違うの……」
「えっ?」
ただ、話すうちに自分の中でも湧き上がってきた後悔に痛みを感じた明日奈は、その言葉を聞き落としそうになってしまうほどに、集中していた。だから、彼女の表情の変化には、気が付くことが出来なかった。

「違うの……アスナも、リョウも悪くない……悪いのは……私だから……私の、所為だから……」
「……え?それ、どういう……」
[間もなく……中目黒……中目黒です]
問い返そうとしたところで、アナウンスが美幸が降りる駅の訪れを告げる。結局電車を降りるその瞬間の別れの言葉まで、美幸はそれ以上一言も言葉を紡ぐことはなかった。

────

「…………」
長く乗っていた列車を降り、ようやく最寄り駅である宮の坂駅についた後も、明日奈は美幸の言葉の意味を考えていた。

“自分の所為だ”と彼女は言った。しかしあの会話はあくまで涼人と自分の間だけで起こっただけであり、彼女は関
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