第1章始節 奇縁のプレリュード 2023/11
7話 互いの進む先
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への恩義があるからかも知れない。
――――まあ、前線で役に立つ情報やったら一番なんやけど、そればかりは高望みっちゅうもんや。
――――坊主が駆けずり回って見つけよる、その情報のおかげで中層プレイヤーは効率的に強うなれるんやで。
――――うちの若いのも感謝しとった。いうても、攻略本は匿名やけどな。それでもやつら、よう目ぇ輝かしよるんやわ。
――――こん情報取ってきた人のために、絶対に最前線に行ったるんやー、ってな。あの言葉、全然関係ないのにワイもホンマ嬉しかった。
――――せやから、その………なんや…………いつも、おおきにな。
いつかのボス攻略会議の後の、珍しくキバオウから切り出された会話。
周囲の罵詈雑言、果てはプレイヤーとして器用貧乏なスタイルの俺はボス攻略から追い出されるかという瀬戸際にあって、彼は俺の有用性を主張して助けてくれたあと、いつもはモスグリーンの集団と揃って帰っていくところを、その時だけは人気のないバーで慰められた。聖竜連合からあらぬ嫌疑を向けられるリスクさえ度外視した行為に、当時の俺はただその真意を素直に認めることもなかった。そんな一幕の記憶。
どうして今更そんな事を思い出すのか。なぜ今頃になって彼を思い出すのか。それを理解する頃には目の前に居る女性プレイヤーは俺の頭を抱き締めていた。
「いや、どうしたらこうなるんだ?」
「………仕方ないじゃない。貴方が突然涙なんて流すんだもの。私だってどうしたら良いのか分からなくて………気付いたら、こうなってたのよ………」
聞いている俺が赤面しそうなくらい震える声で、恥ずかしそうに言われる。言葉の末尾に至っては尻すぼみもここに極まれりとばかりに、まさしく蚊の鳴くような音量だった。
それにしても、全く以てSAOの感情表現は杓子定規で困る。そもそも人の感情をデータで表現するには未だ障害も多かろうに。おかげでこのような弊害が発生する始末だ。
「貴方もいろいろ抱えてるのかもね。私も、関係の浅い相手にアッサリ弱いところ見せちゃうときだってあるから、その気持ちはなんとなく分かるわ。付き合いが長い所為で打ち明けられないことだってあるもの」
経験の差というものだろうか。やはり年長者から聞く発言は重みが違うように思えた。
しかし、頭を抱えていた手が後頭部を撫で始めたところで、そろそろ俺も羞恥心で居たたまれなくなる。意識を止水の域にまで鎮め、開眼し、一言。
「………ありがとう。もう大丈夫だ」
「良いのよ、このくらい。まだ若いんだから、少し気が緩むくらい誰にだってあるわ」
妙なリアクションはない。どうやら赤面だけは回避したらしい。やはり感情エフェクトはある程度制御は出来るようだ。
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