暁 〜小説投稿サイト〜
天使の箱庭
シーン1 
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春香「そうですけど。私と同年代の独身男がわ〜んさか集まるような、ミラクルサークルって
   ありますかねぇ?」

エレベーターのドアがあくと、行列がぞろぞろと飲み込まれていく。

 男「ふふ。お前、自分の30年後を真剣に考えてみたことあるか。」

春香「30年後ねぇ…。それを考えるとちょっと怖いですけど。
   黒づくめのくたびれたおばちゃんが目の前に立ってたりしたら…。」

ふと隣の中年女性と目が合う。見ると、自分そっくりな黒ずくめの格好をしているではないか。
春香、思わず悲鳴を上げそうになって俯いた。
女性は春香と話していた男に意味深に笑いかけ、ドアがあくと軽く会釈して降りていった。

「こっちに来てたのか…。」とつぶやく男。

春香「お知り合いですか?」

 男「うん? うん、まあな。」

春香「ひょっとして昔の恋人とか?」

 男「ふん、そんなんじゃないよ。」  

春香「ええ? 怪しいなぁ…。」

 男「そんなことより、お前にぴったりの恋人を紹介してやろう。」

春香「やっと仕事の話ですか。」

二人は次の階で降りると、長い廊下をコツコツと並んで歩き出す。

 男「ほら、この間の高速バス転落事故。」

春香「ああ、あの事故…。ちょうど私が休暇から戻ってくる日でした。
   酷い事故でしたね。犠牲者も多くて。」

 男「事故原因についてはおいおいわかってくるだろうが、乗客の精神的な          
   ダメージも気になるところだ。                           
   お前、以前PTSDの記事を書いてたよな。」

春香「ええ。震災後の心的外傷ストレス障害について、数年間取材したことがあります。
   心理療法のセミナーに参加してPTSDの治療についても詳しく勉強しました。」

 男「今回もその角度からこの事故を追ってみちゃどうかと思ってな。」

春香が立ち止まり、男と向き合う。

春香「ええ、是非やらせてください。でも、事故からまだ間もないですし、
   乗客への取材はまだ難しいのでは…。」

 男「乗客は今グループセラピーを受けているそうだ。
   病院の知り合いにアポはとってあるんだ。とりあえず行ってみてくれないか?」

春香「わかりました。」

得意分野とあって、春香はやる気満々にそう答え、颯爽と歩き出した。         

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