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9部分:第九章
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胴上げで」
「巨人も意地を見せて欲しいな」
「それはないな」
 本田はそれを完全に否定した。
「阪急には勝てないな。今の阪急にはな」
「やっぱり山口が凄いよ」
 小坂もそれを認めるしかなかった。
「あの剛速球はちょっとやそっとじゃ打てないね」
「そうだろ?俺が言った通りだろ」
「うん」
 あらためて本田の言葉に頷く。
「張本や王も打てないなんてね」
「あれは打てるもんじゃない」
 本田はここで首を横に振った。
「近鉄でもあいつは全然打てていないんだからな」
「ペナントでも凄いらしいね」
「横からだと全く見えない」
 それが山口のボールだった。
「本当にあんなのははじめて見た。あれはとんでもないぞ」
「とんでもないんだ」
「ああ、とんでもない」
 その言葉にも頷いてみせる。
「打てる方が凄いさ」
「誰か打ってくれないかな」
「打たれたその時は阪急が終わる時だ」
 豪語そのものだった。
「山口が打たれたその時がな。それでだ」
「うん」
 ここで話が終わった。
「俺は書き終わった。御前は?」
「ああ、あとちょっとだよ」
 こう彼に答える。
「今すぐに書くから」
「いや、急がなくていいさ」
 しかし彼は親友にこう言って落ち着かせた。
「ゆっくり書けばいい」
「有り難う。とりあえず書き終えてくよ」
「さて、明日は」
 また本田は言う。
「上田さんの胴上げか。楽しみだな」
 こんなことを言っていた。ところがその試合は敗れてしまいそのまま何と三連敗を喫してしまった。上田も焦っていたが本田の焦りもかなりのものになっていた。
「おいおい、本田記者」
「随分焦ってるのがわかるな」
 何と三勝三敗で互角に持ち込まれた次の日の新聞では。本田の焦燥と狼狽が読者にも見て取られていたのだ。読者達はそれを見て笑うことしきりだった。
「まだ日本一になったわけじゃないか」
「この前何て書いていたっけな」
 そこを突っ込まれるのだ。
「明日巨人は終わるだの」
「最早盟主ではないだの」
「まあ真実だがね」
 アンチ巨人がポツリと呟く声もあった。
「それでもこれはなあ」
「ないだろ」
 本田の記事は本当に笑われていた。
「七点差をひっくり返されたがこれは敗北を意味するものではない」
「まだ一試合ある」
 その記事が読まれていく。
「事実は事実だけれど」
「あの負けはやばいだろ」
 誰がどう見てもそうだった。日本シリーズは短気決戦であり一敗、またその中のさりげないプレイやアクシデントが勝敗の流れを決してしまうのだ。例えば本田が倒れてしまった昭和四十六年のシリーズにおける王のホームランだ。あれでシリーズの流れは完全に決まってしまったのだ。
「今年もやっぱり巨人じゃないのか?」
「阪急
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