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真田十勇士
巻ノ三十六 直江兼続その一

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                 真田十勇士
              巻ノ三十六  直江兼続
 その者は伝え聞く顔を持っていた、よく見れば。
 背は高く顔は細面で白い。眉はしっかりとしており口元は引き締まり目は涼しげであるが光は強い。
 頭は剃らず後ろで髷にしている。その彼を見てだった。
 真田の家臣達は驚きを隠せない顔でだ、こう言い合った。
「間違いない」
「うむ、伝え聞く通りのお姿じゃ」
「あの御仁こそ直江兼続殿」
「上杉家の執権であられる方ぞ」
「まさかそれ程の方が来られるとは」
「ご自身自ら」
「これはです」
 家臣達は幸村にも言った。
「それ程源四郎様を重く見られているということかと」
「百二十万石の上杉家の執権が来られるとは」
「あの方は景勝公の名代として動かれることもあります」
「ですから」
「いや、これは」
 筧も言う。
「それがしも驚きました」
「全くじゃ」
 清海は余計にだった。
「まさかな」
「はい、あの方が来られるとは」 
 普段は冷静な伊佐も兄と同じく驚いている。
「これは想像もしていませんでした」
「これはです」
 根津も首を傾げさせつつ言う。
「上杉家が殿をそれだけ買っておられるということですな」
「しかしそれでもじゃ」
 穴山もいささか冷静さを失っている。
「あの御仁が自ら来られるとはな」
「うむ、まことに驚いた」
 望月もだった、そのことは。
「これはないと思っておったが」
「それがな」
 由利も兼続を見つつ言う。
「全く驚くべきことじゃ」
「しかしこれはじゃ」
 霧隠が言うことはというと。
「よいことではある」
「そうじゃな、あれだけの方が迎えに来られた」
 海野は霧隠のその言葉に頷いた。
「まことに凄いことじゃ」
「では殿」 
 猿飛は幸村に言った。
「これより」
「うむ、拙者もこれはないと思ったが」 
 兼続自ら幸村を迎えに来ることはだ。
「しかしこれを光栄としてな」
「そしてですな」
「そのうえで越後に入り」
「暫しあの国で過ごしましょう」
「それではな」
 幸村は十勇士達の言葉に頷いてだ、そのうえで。
 後ろに控える家臣達にだ、こう言った。
「では今までご苦労だった」
「はい、それでは」
「お達者で」
「あちらでも文武に励まれて下さい」
「ご自身を鍛えられて下さい」
「うむ、それではな」
 その家臣達に微笑んで応えてだった、幸村は十勇士達を連れて前に出た。そして越後の中に入ってだった。
 兼続にだ、馬から降りて礼をした。そして。
 兼続もだ、馬から降りてだった。
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