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8部分:第八章
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が終わってから二人は仕事に戻る。この年は阪急も巨人も、そして近鉄も優勝することはなかった。巨人の連覇は終わり長嶋は引退した。引退の時小坂は静かに泣いていた。一塁側のスタンドで静かに泣いていた。
「泣くなっていう方が無理か」
「悪いね」 
 隣にいる本田に対して謝罪する。
「涙が止まらないよ」
「一つの時代が終わったな」
 本田は泣いてはいない。しかし寂寥をこれまでになく強く感じていた。
「遂にな」
「そうだね。もう背番号三を見ることはないよ」
「そうだな」
 この時はそう思っていたのだ。長嶋の背番号が永久欠番になることはもう決まっているようなものだった。実際にそうなったのだが。
「村山実もいなくなったし」
「そうだな。村山もな」
 長嶋を終生のライバルと定め常に正面から向かっていた村山も既にマウンドを去っていた。そして今長島自身も去るというのだった。
「いなくなったし。後は」
「けれど巨人はまだあるだろ」
 ここで本田は小坂に告げた。
「巨人は?」
「今長嶋言っただろうが」
 花束を持ってファン達に話している。丁度その時だったのだ。
「声援がある限り巨人は永遠に不滅だってな」
「そうだね」
「そうだよ。杉浦がいなくなっても南海だってある」
 杉浦は昭和四十五年に引退していた。多くの選手やファンに見送られての引退だった。最後は右腕を壊していたがそれでも。大エースに相応しい花道だった。そして今の長嶋も。
「巨人だってそうだ」
「じゃあ。これからも巨人の記事を書いていくよ」
「そうしろ」
 一言だった。
「日本シリーズで待ってるぞ」
「うん」
 こう言い合って涙を止めた小坂だった。この年のオフに阪急に山口高志が入った。ドラフトでは近鉄が交渉権を獲得したが近鉄は彼を獲得せず阪急に流れた。その彼の恐ろしいまでの剛速球を得た阪急はそのまま日本一を決めた。だがその相手は広島であり巨人は何と球団史上初の最下位に沈んでいた。
「最下位だなんてね。流石に思いもしなかったよ」
「しかも相手は広島か」
「広島も。強くなったね」
 二人は屋台にいた。そこでおでんを食べながら話をしている。どうにもしんみりとした感じだった。
「近鉄もな。あれは間違いだった」
「山口を取らなかったからね」
「ああ」
 この返事には無念の情が満ちていた。
「おかげで後期優勝したのがふいになった」
「山口を手に入れた阪急はかなり強くなったね」
「何年かは無敵だな」
「何年かは?」
 今の本田の言葉に引っ掛かるものを感じずにはいられなかった。それでまた尋ねた。6
「ずっとじゃないの?山口がいるまで」
「確かに山口は凄いピッチャーだよ」
 それは彼も認めるところだった。
「あの剛速球は今までにないな」
「尾崎とか江夏よ
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