第一話 声
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アレはコントロールの効かない危険な能力だ。
彼女にとっても諸刃の剣になりかねない。
「じゃあ辰郎は…」
言いかけて、慌てて首を振る。
百香は震える手でバッグとキーを拾いあげ、車までよろよろと歩いていく。
エンジンをかけ、暖房をつけると、つけっぱなしだったラジオが
「プー」と6時の時報を告げた。
すぐ横のスペースには彼のバイクが置かれたままだ。
百香は口をすぼめ、ふーっと息を吐いた。
「落ち着け、落ち着け… 誰も見てなかったはずよ。」
自分にそう言い聞かせ、ハンドルを両手で強く握りしめると、
百香は慎重にアクセルを踏みこんだ。
家に戻ると、百香はバッグを放り投げ、ソファに体を投げ出した。
「みゃ〜 みゃ〜」摩周が甘えて鳴いても、なんの反応も示さない。
本気になった摩周。今度はママの大好物『もふもふ作戦』に切り替えた。
ソファに飛び乗り、ママの顔にもふもふを充てがう。すると、ようやく
ママの手が伸びてきて、背中を撫でてくれた。
百香が片手で摩周の体をぎゅーっと引き寄せる。彼の毛は保温力抜群。
百香の顔から肩にかけて、一瞬にして局地的な熱帯域が出現した。
摩周がママのおでこをざらっと舐める。
「痛いっ!」
傷に触れたらしい。思わぬ反応に驚き、摩周がぽとっと飛びおりた。
振り向きざまにしっぽを「ぶん、ぶん」、神妙な面持ちで侘びのポーズ。
が、残念ながら、それは百香の目には留まらなかった。
彼女は既に、遠のく意識に身をまかせていた。
ソファに体が沈みこむような感覚の後、すとん、と電池が切れた。
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