暁 〜小説投稿サイト〜
トンデケ
第一話 声
[5/5]

[9] 最初 [2]次話

 アレはコントロールの効かない危険な能力だ。
 彼女にとっても諸刃の剣になりかねない。
  
「じゃあ辰郎は…」 

 言いかけて、慌てて首を振る。
 百香は震える手でバッグとキーを拾いあげ、車までよろよろと歩いていく。
 エンジンをかけ、暖房をつけると、つけっぱなしだったラジオが
 「プー」と6時の時報を告げた。
 すぐ横のスペースには彼のバイクが置かれたままだ。
 百香は口をすぼめ、ふーっと息を吐いた。
 
 「落ち着け、落ち着け… 誰も見てなかったはずよ。」
 
 自分にそう言い聞かせ、ハンドルを両手で強く握りしめると、
 百香は慎重にアクセルを踏みこんだ。
 

 家に戻ると、百香はバッグを放り投げ、ソファに体を投げ出した。
「みゃ〜 みゃ〜」摩周が甘えて鳴いても、なんの反応も示さない。
 本気になった摩周。今度はママの大好物『もふもふ作戦』に切り替えた。
 ソファに飛び乗り、ママの顔にもふもふを充てがう。すると、ようやく
 ママの手が伸びてきて、背中を撫でてくれた。
 百香が片手で摩周の体をぎゅーっと引き寄せる。彼の毛は保温力抜群。
 百香の顔から肩にかけて、一瞬にして局地的な熱帯域が出現した。
 摩周がママのおでこをざらっと舐める。

「痛いっ!」

 傷に触れたらしい。思わぬ反応に驚き、摩周がぽとっと飛びおりた。
 振り向きざまにしっぽを「ぶん、ぶん」、神妙な面持ちで侘びのポーズ。
 が、残念ながら、それは百香の目には留まらなかった。
 彼女は既に、遠のく意識に身をまかせていた。
 ソファに体が沈みこむような感覚の後、すとん、と電池が切れた。
[9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ