5部分:第五章
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むべき巨人を完膚なきまで粉砕し今度こそ西宮にチャンピオンフラッグが立つ!阪急の栄光が今はじまるのだ!」
阪急の本拠地は西宮球場だった。今では懐かしい話だ。
「巨人を倒す!若き阪急が今!巨人を打ち砕く!」
「あれって本田記者だよなあ」
「多分な」
丁度電車に乗るサラリーマンや学生達は離れたところから彼を見て囁き合う。かなり引いている。
「記事を見ていたら凄い人だと思っていたけれど」
「実際にも凄い人だったんだ」
「極悪殲滅!」
下火になってしまっていた学生運動よりも酷い。
「巨人を滅し!阪急が王になる!今年こそ!」
「あの人あれで結婚してるんだってな」
「奥さんも大変だよな」
こうまで囁かれている。
「あの会社もえらい人飼ってるよ」
「全くだ」
「野放しにするなよな」
こうまで言われているが元々人の言葉は耳に入らないので意味はない。そうして騒ぐままにしていると遂にシリーズがはじまった。問題は第三戦だった。
九回裏。阪急のマウンドに立つのは若きエース山田久志。ランナーを二人背負いバッターボックスに立つのは王。その王のバットが一閃した。
「何じゃこりゃあああああああーーーーーーーーっ!」
当時人気だったジャンプの漫画山崎銀次郎の台詞がそのまま出た。
何とホームランだった。逆転サヨナラスリーラン。言うまでもなく阪急の負けだ。ボールはライトスタンドに突き刺さり山田は沈み込む。ついでに本田も前のめりに倒れ込んだ。
「終わった・・・・・・。何もかも」
「お、おい本田君」
隣にいた小坂がすぐに彼に駆け寄った。
「どうしたんだよ、大丈夫かい!?」
「このシリーズも終わりだ」
生きていた。だが完全に終わっていた。
「巨人の勝ちだ」
「何言ってるんだよ、試合はまだ」
「いや、わかる」
虚ろな言葉で語る。
「俺にはわかる。阪急の負けだ」
「負けだってまだ二敗しただけじゃないか」
日本シリーズは三敗までできる。これが重要なのだ。
「まだ。これからだよ」
「いや、無理な」
その虚ろな言葉をまた出す。
「あのホームランで。決まった」
「決まったんだ」
「御前もそれはわかるだろう?」
それを小坂に対して言う。肩を彼に担がれている。
「あの王のホームランはそれだけのものがあるんだ」
「それは」
「否定できないよな」
それをまた問う。
「御前なら。野球を知っている御前ならな」
「・・・・・・まあね」
彼もそれを認めた。遂に、であった。
「今のホームランはこのシリーズを決めたよ」
グラウンドをスタンドを見る。ナインも観客席も盛り上がっている。山田はマウンドに沈み込んだまま動かない。その彼を迎えに行くのは西本だった。
「だが。俺は最後まで見る」
「最後まで」
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