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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 7
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んて、本物の信徒が知ったら怒り狂いそうだ。
 苦笑いで指を解き、体の向きをくるんと反転。左右対称でずらりと並ぶ長椅子の最前列左、通路側端へ腰を下ろした。
 荷物を隣に置き、賑やかな声を斜め後ろに聴きながら女神像を見上げる。女衆が一人残らず家に帰るまで、ただただ じっと見上げる。
 (……退屈だ。でも、この瞬間を含めて『戦』なんだから! 今の私は真剣に悩む信徒の一人。みんなが帰った後、神父が話し掛けてくるまでは、悩んでる格好を崩しちゃ駄目!)
 変更前の作戦は「誰にも見付からず密かに盗み出す」が大綱だった。
 しかし、怪盗の動きが封じられるならと変更した後の作戦では、「誰の目にも自然な形で持ち出す」が肝だ。
 そう。盗むのが難しいなら、同意を獲て持ち出せば良い。
 まさか莫迦正直に女神像の指輪を下さいとは言えないが、鎖に直接触れる機会さえあれば本物と偽物を入れ換えるくらいは可能だ。
 指輪が見えてなくて良かったと思う。
 遠目にもゴテゴテの細工が必要だったら、五日間じゃ到底足りなかった。銀の台座に丸くて青い石を乗せるだけなら、ミートリッテでも簡単に作れる。
 急な出費は財布に痛いが……指輪を入れ換える為、鎖に触れる為に、女神像に何回登っても不敬を問われない方法を考えてきたのだ。
 許可をもぎ取る対象と同じ空間でぼんやりして、嘘を見透かされる訳にはいかない。
 (さっきは不意を衝かれたけど、もう二度と油断しないから。人情でも物理的な弱点でも何でも良い。私が精神面で優位に立つ為に、貴方の弱味を探らせてもらうわよ。アーレスト神父!)
 目線はあくまでも女神像に定めたまま、耳は集団に傾ける。
 村の様子や、今日の天気や、何処の誰がどうしたこうした。
 女声が紡ぐ言葉はたわいない内容ばかりで、アーレストも特に変わった返事はしていない。所謂、井戸端会議だ。
 もしかして、一日中こんな調子で似たり寄ったりな会話をしてたんだろうか。人の話を聴くのも神父の仕事……にしたって、軽く拷問だな。きっと、解決させたい問題を相談されてるのとも違うのに。お気の毒。
 「神父様は王都からいらしたのですよね。其方ではどのようにお過ごしでしたの?」
 (うわぁー。今までそんな言葉遣いしてなかったよね。何枚着込んでるの? 猫の皮)
 「無二の親友達に大変有意義な時間を与えられました。彼の地での経験は、これから先を生きる希望と言えます。貴女方とも大切な時間を共有させていただければ幸いです」
 笑顔を深めたのだろう。女衆の黄色い悲鳴が波打った。
 (……微妙に濁してない? それで良いの?)
 声の応酬を楽しみたいのであって、内容はどうでも良いのか。
 「神父様のご親友となれば、さぞ優秀な方々なのでしょうね」
 「ええ。私など、彼女達の慧眼や勤勉さの前には
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