暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 7
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 『戦』はまだ始まったばかり。気後れしちゃいられないと、心持ちをしっかり立て直す。
 「御前へ伺っても?」
 「ええ、勿論。日に何度祈りを捧げても、女神アリアは歓迎してくださるでしょう」
 背後で扉を閉め、するりと離れていくアーレスト。その辺りは変わらないんだと安心して見送れば、ミートリッテへの敵意に満ち満ちていた女衆の視線が色を変えて神父一人に集中する。
 (みんな単純だなぁ。色目なんか使って、喰われちゃっても文句は言えないよ? と思ったけど、これだけ牽制し合ってれば抜け駆けも摘まみ喰いも難しいか。って……あれ? こんな状態じゃ、外側の人間も自分達も身動き取れな……そうか。好きなものに群がる行為自体が、個々の防衛にも繋がってるのね。へぇー。これも生物の本能なのかしら。凄いな、女社会の仕組み。倣いたくはないけど)
 変な感心を抱きつつ、愛想が良い神父を囲い込む女衆を避けて、壁沿いに女神像の足下まで進む。
 壁掛けに床置きに。無数の燭台が照らし出す空間は、下見の下見で訪れた時よりほんのり薄暗い程度。ただ、一定ではない揺らぎが影を動かし、何処か不安定さと不気味さを演出している。
 (……?)
 祭壇の前で何気無く女神像の左手首を確認すれば、細い鎖がきらりと光った。
 何度か瞬きを繰り返したミートリッテは、眉を寄せて首を傾げる。
 (……アリア信仰って、女神像を飾り付ける習慣でもあるのかしら?)
 目立つ。
 指輪自体は小さいからか、目には映らないが。とにかく鎖が目立ってる。
 真昼の逆光では判り難かったのに、今は顔を上げれば自然と視界に入ってしまう。
 (腐れ男共の話を真に受けるなら、少なくとも前任の神父が滞在してた間はずっと引っ掛かってた筈よね?)
 これまで殆ど教会に来なかった信仰心の薄い女衆はともかく、この場所で暮らす神父達が気付かなかったとは思えないが……実際、肩越しに背後の集団をちらりと窺ってみた限りでは、アーレスト含め誰一人として鎖を気にしてない。
 海賊の言う「世話になった昔」が具体的に何年前なのかは聞いてないが……今日になるまで外されてないのだから、これが普通なのか。
 神でも「女」だから装飾品が好きって設定で、奴らもそれを知ってて違和感が少ない此処に隠した?
 ふわふわした語りが大好きな宗教も、意外に俗っぽい側面があるらしい。
 (だとしたら好都合、なんだけどな)
 家から持って来た小道具入りのバッグを小脇に抱え、両手の指を組んで祈りを捧げる。
 (ごめんなさい、女神アリア。貴女の存在やら教えやらは全然丸っきり髪の毛一本分も信じてないけど。私はこれから、貴女を信じて働いてる? アーレスト神父を騙します。此処でだけ正直に謝っておくので、どうか許してください)
 自分の悪行を正当化する気休めの祈りな
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