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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 7
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こういう時、女なら大抵は「あらまぁ」とか言いつつ頬を薄紅に染め、内面で狂喜乱舞するものなのだろうが。
 ミートリッテは取られた手を咄嗟に引き寄せ、体重を乗せた拳で綺麗な顔面を変形させてしまいそうになった。
 (き……きき……っ、気っ色悪ぅーッ! 今の何!? なんなの、今の!? 愛らしいとか口付けとか、これが聖職者の言動!? 昼に会った時の態度と全然違うじゃない! めっっちゃくちゃ空空しいんですけど!?)
 アーレストに触れられた場所から凄絶な寒気が走る。小さな虫が全身を這い回っているかのようなぞわぞわ感が、物凄く気持ち悪い。
 ワンピースが露出を控えた造りになっていて助かった。(やすり)並みに立った鳥肌を見られる心配が無い。
 「…………お上手ですね。」
 さすがに顔面を殴るのはまずい。
 奇声を上げて暴れまくりたい衝動を理性で必死に抑え込み、なんとか笑顔を取り繕う。
 「思うままを告げただけですよ。ですが……ああ、いけませんね。貴女のような可愛らしい方を見ていると、つい口が弛んでしまう。女神に仕える者の言としては、軽薄に聞こえてしまったでしょうか?」
 聞こえました。あまりにも白々しくて心臓が冷たいです。温暖な地域が瞬時に寒冷地帯と化しました。猛吹雪に襲われたみたいで、とてもとっても寒いです。
 などと、正直に言えたら心底スッキリするのだが。
 雪なんて一度も見たことないけど。
 「いえ……ありがとう……ござい、ます」
 「ふふ、良かった。どうぞ、お入りください……あ。荷物、お預りしましょうか?」
 「いえ、これは大切な物なので。お構いなく。」
 手を取られたまま、アーレストの優雅なエスコートで礼拝堂へと足を踏み入れる。光でくっきりと形を得た彼の爽やかな微笑みを見上げて、ミートリッテは確信した。
 (遊び人だ……この人絶対、真性の遊び人だ!)
 上流社会の挨拶には慣れていないミートリッテでも、それが儀礼的なものか裏があるのかくらいは嗅ぎ分けられる。
 あんなの、社交辞令なんかじゃない。
 獲物を見付けた狼の誘い文句だ。
 『アーレスト神父は女遊びに長けている』
 一番の障害は女衆の目線だと思っていたが、どうやらその認識も改める必要が出てきた。
 この神父、女衆に捕らわれた憐れな囚人なんかじゃない。とんだ食わせ者だ。多分、一筋縄では攻略できない。物腰の柔らかさに気を抜いたら、あっさり呑まれてしまうだろう。
 昼に見せた真面目そうな態度はなんだったんだ。仕事熱心な性格に合わせて考えていたのに、差が酷すぎる。まるで別人。詐欺じゃないか。
 (……だからって、此処まで来たら退くに退けないんだけどさ。アーレスト神父がどんな人間でどんな癖があるのか、細かく観察するのも目的の内だし、多少の誤認は上書き修正していけば良いわ
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