13部分:第十三章
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昭和三十五年だ。かつて西本は大毎の監督で三原は大洋の監督だった。西本はシリーズにおいてまさかの大敗北を喫したのだ。スクイズ失敗があまりにも有名だ。
それから西本は阪急の監督となり三原は近鉄の監督となった。この時は西本が雪辱を晴らしている。この時も本田の筆は冴え渡っていた。
「わからないものだよ」
「その西本さんが今は近鉄の監督だし」
「俺も近鉄担当になった」
話は本田自身にも及んでいたのだった。
「本当にわからないものさ」
「そうだね。ところで」
「何だ?」
「球場の雰囲気が変わったよ」
小坂は今行われているその試合について話を戻したのだった。
「ほら、何か」
「森本のホームランのせいだ」
それはもう完全にわかっている本田だった。
「これで流れは阪急に戻った」
「阪急にだね」
「あと三回だ」
本田は次にイニングについて言及した。
「あと三回でまた阪急のものになった流れを元に戻せるか」
「難しいね」
小坂はすぐに答えた。
「それは」
「ああ、それもかなりな」
本田はまた言った。彼もグラウンドに目を戻していた。同時に観客席も見る。
「ここまでいったらな」
「もう巨人は負けかな」
「相当なことが起こらない限りな」
何故かここでは妙に冷静だった。普段の巨人を前にした時の彼ならばそれこそ狂喜乱舞しているところだが。何故かこの時ばかりは冷静だった。
「阪急の日本一だ」
「日本一。二回目の」
「いや、一回目だ」
しかし彼はここで一回目と言った。
「一回目って?去年のは」
「確かにあれも日本一だ」
不思議な言葉だった。その優勝が日本一であるが一回目ではないと言うのだ。小坂にとっては実に意味のわからない奇妙な言葉だった。
「だが一回目じゃない」
「じゃあ一回目は何なんだい?」
「巨人に勝った時だ」
それが一回目なのだった。
「巨人に勝ってこそ一回目の優勝なんだよ」
「そうだったの」
「南海だってそうだったよな」
「そうだったね。南海は確かにそうだったね」
二リーグ制になってはじめての日本一はその昭和三十四年のシリーズなのだった。別所を奪われた南海がその別所をも凌駕する大エース杉浦忠を手に入れて巨人を押さえ付けたその優勝だ。南海は巨人を粉砕してその長年にわたる雪辱を晴らしての日本一だったのだ。
「西鉄も。三原さんが」
「そう、だから阪急も」
だからこその一回目だったのだ。阪急もまた巨人とか深い因縁があったのだ。
「今日勝ってやっと」
「あの人、喜んでくれるかな」
「いや、西本さんは笑わないな」
本田は言った。今度はにこりとしなかった。
「あの人はそういうことで笑う人じゃないよ」
「そうだね。あの人はね」
「阪急の選手達が自分の為に頑張ってくれ
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