108章 信也、吉本隆明の芸術言語論について講演する
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値の自己増殖でこそが、文学という言語の美の本質なのだと、吉本さんは言っています」
「さて、この≪言語の本当の幹と根になるものは、沈黙なんだ。≫ということですが、
おれは、ここで、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインという哲学者の言葉を連想するのです。
ウィトゲンシュタインは、『論理哲学論考』で、
『語りえないことについては、人は沈黙せねばならない』と語って、
『語りえないもの』とは何か? を一生問い続けたともいえます。
オーストリア出身で、20世紀初頭のイギリスのケンブリッジ大学で活躍した天才哲学者でした」
「みなさんは、言語を使っても、語りえないものには、どんなものがあると思いますか?」
「信也先生!それは、たとえば、男女間の≪愛≫じゃないでしょかぁ?きゃっはははぁ」
最前列のテーブルに陣取る、華やな私服の女子中高生たちのひとりが、
元気な声で、信也にそう言うと、グループのみんなは、明るく笑った。
「あっははは。そうですよね。≪愛≫は、語りえないものですよね。あっははは。
ウィトゲンシュタインは、≪神秘的なものは語りえない≫と言ってます。
≪この世界があるということ、その事実が神秘なのだ≫とも言っています。
おれの解釈では、語りえないものは、いっぱいありますよ。
世界の存在も、生きている意味も、なぜ人の心はあるのかとか、神の存在のこととかも。
さて、おれも、難しい話は大の苦手なので、簡単に、そろそろまとめて、終わりにします。
ウィトゲンシュタインがこんなふうに言っているのです。
≪哲学の最終目的は、語りえぬ存在を示すこと。
そして、そのことによって、その神秘的なものを、暗示することである≫と。
おれも、まったく、同感しますよね。みなさんは、どのように感じたり、
お考えになるでしょうか?」
「さて、ウィトゲンシュタインは、≪神秘的なものは語りえない≫と、
吉本さんの≪言語の本当の幹と根になるものは、沈黙なんだ≫という考え方は、
美しいほどに、一致していると、おれは考えるのです。
さて、では、わたしたちに、できることとは、どんなことでしょうか?
おれには、こんなことしか、浮かばないのです。
つまり、ウィトゲンシュタインが語る≪神秘的なもの≫や
吉本さんが語る≪言語の本当の幹と根になるもの、沈黙≫とかを、
第一に大切にすることです。
つまり、自分の中の愛や心を見つめて大切にするってことですよね。
そして、愛や心が、原動力でもあって、また、愛や心を育むものでもある、
芸術的なことを、大切にして、楽しく元気に、日々を生きていくことです」
「ウィトゲンシュタインの哲学も、吉本さんの思想も、
人生が正しく見えるようにしてくれる、貴重な考え方だと思っ
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