冴島 大河
第一章 刑期中の悲報
第一話 兄弟
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改めて座り直す。
「せやけどな、ワシは桐生ちゃんが死んだって話、嘘やと思っとんねん」
「嘘やと……?」
「まだ死体が出てきてへんからや。ワシはこの目で見ん限り、死んだとは認めへんからな」
「それは俺も同感や。あないなごっつい男が、簡単に死ぬなんて思えん」
さっきまでの笑顔から一変、互いの顔が強張る。
何故、という疑問。
失った、という虚無感。
それよりも、信じられないという気持ちが1番強かった。
「冴島、ワシは桐生ちゃんを捜そうかと思っとる。見つけても見つからんくてもええから、いっぺんやってみよかて」
「ま……まさか兄弟、ここに来た理由っちゅうんは……」
真島は、目の前のガラスを叩き割らんかの勢いで、頭を思い切り下げる。
悩んでいた冴島は、真島のその行動で気付いた。
桐生捜しを、手伝ってほしい。
やれるなら、やりたい。
ただ今は、このガラス1枚で隔てられた向こうの世界に出る事は出来ない。
誰かの許可無しには……。
そこで冴島はさらに気付く。
現実に向き合うか逃げるか、お前に任せる。
その言葉の真意が、わかった気がした。
「兄弟、俺も連れてってくれ。手伝う」
「ホンマか!?」
「勿論や。俺だって真相を知りたいんや。桐生はホンマに死んだんか……」
その言葉を聞いて安心したのか、真島は椅子の背に力が抜けたかのようにもたれかかった。
断られると思ったのだろうか、顔にいつもの余裕がない。
「とりあえず明日、10時に駅で待っとる。それまでに、準備は出来るだけしとくんやで」
そう言い残して、真島は去って行った。
1人取り残された冴島の元に、再び高坂が現れる。
「決めたか、冴島」
振り返った冴島の目には、既に迷いは無かった。
言葉で伝えずとも、考えを汲み取った高坂は、静かに笑う。
「逃げは、しないのだな」
「何や、えらい嬉しそうやないか。俺は囚人やぞ?」
「そんな事は無い。明日、所長室へ来い。仮釈放の届け出をだしてやる」
「……あんたも変わったな」
「気のせいだ。独房へ戻るぞ」
冴島は立ち上がり、面会室から出ようとする。
ふと振り返り、そこに誰もいない事を再確認した。
気のせいか……。
そのまま面会室を、静かに去って行く。
入れ替わるように、面会室に男が入ってきた。
こんな時期には似つかわしく無い、黒コートにフードを被った男。
顔を上手く隠しているが、少し伸びた髭は隠せていなかった。
「奴が、冴島大河……か。」
男は何かを確認して、面会室から姿を消した。
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