12部分:第十二章
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見ればベースに阪急の選手達が総出でいた。その彼等が集まって森本を待っていたのだ。
森本のホームインを並んで出迎える。森本がホームを踏んだその時ナインとファンの声が後楽園を包んだ。
「これで勝てる!」
「優勝だ!」
「そうだ!日本一だ!」
やはり本田も叫んでいた。
「これで決まる。後は足立が投げきるだけだ」
「足立がだね」
「そうだ。もうすぐだ」
期待に震える顔になっている。その顔での言葉だった。
「阪急の日本一だ。もうすぐ」
「優勝するんだね」
「ああ」
グラウンドから目を離さない。離せなくなっている。
「試合も終盤だしな」
「ああ、そういえばそうだね」
本田の言葉にふと気付いてスコアボードを見ると。もう七回だった。試合はもうすぐ終わりになとうとしていたのだ。
「これで。終わりだよ」
「遂にだね」
「長かったな。いや」
本田はすぐに自分の言葉を訂正した。
「短かったな。あっという間だった」
「この一年が?」
「いや、一年じゃない」
こうも言う。
「一年どころじゃない。昭和四十二年からだから」
「十年だね」
「そうか、十年になるのか」
これまでのことを振り返り感慨に耽る。
「あの時から。いや、それも違うか」
「それでも違うの?」
「あの時からだよ。ほら」
もう完全に懐かしむ顔になっていた。何時になく優しい。
「長嶋が活躍していて杉浦がシリーズで四連投四連勝して」
「もう凄い昔に思えるけれど」
「ああ。十八年だ」
一口に十八年と言っても。かなりの歳月だった。そのかなりの歳月の間二人は見続けていたのだ。今本田はそのことも思っていたのだ。
「長かったよな」
「十八年間ずっと野球を見ていたよね」
「女房いるだろ」
「うん」
不意に本田は自分の妻のことを話に出してきた。
「あいつな」
「奥さんがどうかしたの?」
「御前も言われなかったか?野球ばかりだって」
「言われたよ」
見れば本田の顔も綻んでいた。
「野球ばかり考えてるってね」
「そんなつもりないんだがな」
「それでも言われるよね」
「ああ。けれどそうかもな」
今はそれも肯定するのだった。あの激しさを消して。
「確かに俺は野球だらけだよ」
「それは僕も同じだよ」
声が温かいものになっている。秋も深いというのにその声はまるで春の様に温かいものになっていた。
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