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10部分:第十章
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るのに。違うか?」
「上田さんかな」
「残念だが違うな」
 本田は上田という名前には首を横に振った。
「見ろよ、ウエさん」
「んっ!?」
 本田が指差した先を見る。そこは三塁側ベンチで今は阪急ナインがいる。その彼等の中に立つ穏やかな、スーツを着ればそのまま何処かのサラリーマンといった風采の中年男を指差していた。
「あちこちをキョロキョロしてるよな」
「不安なんだね」
「流石にそうなるさ」
 本田は言った。
「昨日あれだけ負けてタイに持ち込まれたんだ。それでああならない方が凄いさ」
「巨人のベンチはリラックスしてるね」
「それも当然だな」
 これについても言及した。
「昨日の勝ちはそれだけ大きいってことさ。七点差をひっくり返したからな」
「阪急ナインは皆固まってるけれどね」
「だからよく見ろって」
 しかし本田はまた小坂に言ってきた。
「よくな。わからないのか」
「!?だから誰が」
 しかしまだよくわからない小坂だった。
「そうなのかな。見たところ誰も」
「そうか。じゃあもうそれでいいさ」
 ここで一旦話を終えるのだった。
「それでな」
「いいんだ」
「よく考えたら試合がはじまればそれでわかるからな」 
 だからそれでいいというのだ。彼の発想の転換だった。
「それでな。見ていろ、巨人信者共」
 満面に不敵な笑みを浮かべての言葉だった。
「騒げ騒げ。幾ら騒いでも無駄だからな」
「そろそろはじまるよ」
 その本田に小坂が声をかける。
「最後の試合がね」
「ああ」
 こうして遂に最後の試合がはじまった。その先発メンバーだがマウンドに立つべき阪急のピッチャーには誰もが失笑していた。
「幾ら何でもな」
「これはないだろ」
 後楽園の巨人ファン達はこう言って巨人の勝ちを確信していた。だからこそ安心もしていたのだ。
「上田さんか?向こうの監督」
「確か抜群の知将らしいよな」
 彼等の多くは巨人以外を知らない。突き詰めて言えば野球もよく知らない。実際のところは。野球を知っていれば巨人は応援できない。
「案外大したことないよな」
「全くだよ。幾ら山口が打たれたからって」
 そう言い合いながらマウンドを見るのだった。そこにいるのは足立だった。黙々とアンダースローから投球練習を行っていた。
「足立か。十年前ならともかくな」
「今の足立はな」
 既にベテランでロートル扱いだった。エース山田やその山口と比べると遥かに見劣りする存在になっていた。それは紛れもない事実だった。

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