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第一章
応援
本田勝久は晴れて立教大学に入った。わけではなかった。
「おいおい、本当に予想通りだな」
キャンバスの中の皆を見てまずは一人不平不満を愚痴るのだった。その細い顔と眉を思いきり不機嫌にさせて薄い唇をへの字にさせている。痩せた身体に不機嫌のオーラをまとっている。
「長嶋長嶋ってよ。何が長嶋なんだ」
立教大学は長嶋茂雄の出身校だ。しかも彼が入学したこの年は昭和三十四年、その長嶋が新人王に二冠王を達成した年だった。彼にとっては不機嫌極まりない年だった。
実は彼は長嶋自体は嫌いではない。しかし巨人はこの世で最も嫌いだった。そのせいで彼は。今のこの大学の空気が極めて不愉快だったのだ。
「野球は長嶋だけじゃないぞ」
こう言う。
「何が巨人だ。あんな球団潰れてしまえ」
これが口癖だ。
「好き放題やっていて何が球界の盟主だ。喪主にでももずくにでもなりやがれってんだ」
こんな有様だった。入学式が終わって桜の花びらが舞う中でいきなり巨人を罵倒しまくる。その巨人嫌いは最早病理の域に達していた。
その病的な巨人嫌いをみなぎらせて校内を見回す。やはり長嶋しかない。たまに杉浦を見る程度だ。
「杉浦の方が凄いに決まってるだろ」
完全に彼の主観である。
「見てろ。何時か巨人も長嶋も終わる。その時こそ」
「おおい本田君」
一人で吼えまくる本田に対して後ろから声がかかった。振り向くとそこには丸眼鏡で丸顔の小太りの青年がいた。本田は彼の姿を見て余計に不機嫌になった。
「何だよ、小坂かよ」
「どうしたんだよ、そんなに不機嫌に吼えまくって」
彼の高校からの友人である小坂雅人だった。高校一年の時に同じクラスになってそれからだ。親友同士と言ってもいい間柄だがそれでも今は違っていた。
「何かあったのか?」
「何で長嶋なんだよ」
不機嫌さを小坂にも向ける。
「あんな奴の何処がいいんだよ」
「僕に言われても仕方ないよ」
そうは言いながらも笑っていた。
「それにさ」
「そういうわりにはにこにこしているな」
「巨人ファンだからね」
「けっ」
唾こそ吐かなかったがこれまで以上に不機嫌を露わにさせる。目が完全に犯罪者のそれになっていた。刃物を持たせたら何をするかわからない顔だった。
「長嶋好きだったな、御前」
「うん。駄目かな」
「俺にとっては最悪だ」
彼も言葉を隠そうとしない。
「大体立教には大勢の野球選手がいるだろ」
「杉浦さんだったっけ」
「そうだよ、杉浦にしろ」
彼は言う。
「大沢だっているだろ」
「南海の外野手のだよね」
「知ってんだな」
「やっぱり先輩になるからね」
相変わらずにこにこと笑って本田に答える小坂だった。
「知
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