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1部分:第一章
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「試合はまだ先だよ」
「おっと、そうだったな」
 彼に言われて気付くのだった。
「今日大阪ではじまるんだったな」
「大阪には行かなかったんだね」
「金がない」
 理由はそれだった。当時は学生は普通に貧乏だった。ましてや立教大学のある東京から大阪までとなるとその距離はかなりのものだ。移動の金も当然かかるというわけだ。
「だからここで祈るんだよ。巨人の無様な負けをな」
「南海の勝利じゃなくて?」
「巨人の負けだ」
 いきなりキャンバスのど真ん中でイスラムのそれに似た祈りをはじめる。当然周囲は引きまくっているが彼は気にしてはいない。
「あの巨人が負けるんだよ。長嶋が杉浦に抑えられてな」
「あまりここで長嶋さんの悪口言わない方がいいよ」
「おっと、そうだ」
 言われてそれに気付く始末だ。それで立ち上がりはする。
「そうだよな」
「そうだよ」
「巨人が負けた時に楽しみは取っておかないとな」
「結局それなんだね」8
「当たり前だよ。後楽園にも行くぞ」
 高らかに断言する。最早そこには何の迷いもない。
「全部の試合見るからな」
「そうなの。じゃあ僕もまあ」
「御前も行くのか」
「一応。巨人ファンだし」
 確かに巨人ファンだが本田の異常性に比べれば遥かに大人しい。そもそも本田のアンチ巨人ぶりは最早狂気の域に達していた。

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