1部分:第一章
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ってはいるよ」
「あと西本幸雄さんな」
何故かここでさん付けになる。
「大勢いるじゃないか。それで何で長嶋だけこんなに言われるんだよ」
「カリスマじゃないかな」
やはりここでもにこにことして言う小坂だった。
「それがあるからだよ。やっぱりね」
「巨人の宣伝のせいだけだ」
彼の主観はあながち間違ってはいないが完全に主観でしかなかった。その主観でのみ話しているから長嶋の持つカリスマに気付いていないのだった。
「あんなサタンの爪みたいな球団の何処がいいんだよ」
「月光仮面だね」
「そうだよ。悪いか」
当時大人気の番組だ。特撮のはしりだ。
「別所といい。あの球団だけは許せるか」
「南海ファンなの?」
「いや、毎日ファンだ」
また微妙な関係だ。大沢がいて杉浦もいるのに何故か毎日なのだ。
「西本さんがいるからな」
「そうなんだ」
「そうだよ。大体長嶋の巨人は負けただろ」
「負けた?」
「そうだよ、日本シリーズでな」
昨年のことだった。三原脩率いる西鉄ライオンズに対して三連勝した後で四連敗したのだ。球史に残る名勝負とされておりその三原と当時巨人の監督だった水原茂との間で行われた遺恨対決でもある。三年越しの死闘として有名だが本田の中では西鉄が邪悪巨人を破った『聖戦』である。
「それでどうして盟主なんだ」
「僕は別に盟主だなんて言っていないよ」
「ああ、そうか」
主観だけなのでわかっていないのだ。見えていないのである。
「それは済まない」
「それはそうとさ」
とりあえず本田が静かになったのを確認してまた彼に声をかける。
「これからコンパがあるらしいよ」
「コンパか。また随分と早いんだな」
本田はそれを聞いてふと目を丸くさせる。
「何でだ、また」
「有志だけの集まりだけれどね」
こう本田に説明する。
「どう?参加する?」
「ああ、酒は大好きなんだよ」
本田の顔が急ににこにことしたものになる。さっきまでとは完全に別人だった。
「じゃあ行くか」
「大学入ったらもう誰でも飲めるのがいいね」
「だから大学なんだよ」
小坂の横に来ての言葉だった。親友同士に戻って彼の肩を叩いて笑っている。
「高校と違ってな。おおっぴらに飲める」
「おおっぴらになんだね」
「そうだよ、おおっぴらだよ」
つまりそれまでも飲んでいたのだ。それがわかる言葉だった。野球のことは忘れて飲みに行く。とにかくこれが二人の大学生活のはじまりだった。
ペナント中は大人しかった。しかし十月になると。本田はまた随分と騒ぎだした。
「巨人を潰せ!」
そう叫んでいた。大学の中で。
「行け杉浦!打倒巨人だ!」
「それはわかったけれどさ、本田君」
「何だ?」
自分に声をかけてきた小坂に顔を向ける。
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