猫飼ってますよね
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「猫、飼ってますよね」
俺はおずおずと彼の四畳半の薄暗がりを覗き込んで云った。
「……いや?なんで?」
彼…ここを借りている学生は、首を傾げてすっとぼけてみせる。しかし薄暗がりの奥には『猫ちぐら』が鎮座している。……ああ、嫌だ嫌だ、もう帰りたい。帰って寝たい。正直、まともに話し合う気がない違法住民なんてどうでもいい。どうせ解約する頃にはどこもかしこもボロッボロなんだからいいじゃないか猫くらい。
そう云うと親父は怒る。前例を作れば住民が皆真似をする。その結果借家は荒れ放題、場合によっては敷金じゃとてもまかない切れないようなダメージまで蒙ることになるんだぞ。そして維持費が2倍にも3倍にもなる。損をするのは、ここを継ぐお前なんだ。今から悪質な違法住民と渡り合えるように心を鍛えておけ、と。
ああ嫌だ。こんなこと年がら年中やるような仕事、継ぎたくないよ。
「……その籠っぽいの、知ってますよ。猫の家でしょ」
「そ、そうなんだがその……」
男はおどおどと薄暗がりを振り返る。うーん、やっぱり何かいるな。…確かに面倒くさいけど、今後舐められて無茶をされ続ける面倒くささを考えると……。ならもう、何が何でも白黒つけてやる。
「ん?…でも猫の臭いって感じじゃないな、これ。なんていうか…」
気のせいだろうか、獣臭…というよりも、これはアレだぞ、沼の臭いに近い。
「……やっぱり?猫…じゃないよな、これ」
「え!?いや、あなたの猫ですよね、なに言ってんですか」
なんか変な薬でもやってんじゃなかろうな。嫌だぞ事故物件抱え込むのは。
「それなんだが、その」
男は、おどおどと振り返りながら、ぽつりぽつり語り始めた。
数日前、酔った勢いで『猫らしきモノ』を拾った。
段ボール箱(だったかどうかも怪しい)に入ったそれは、抱き上げるとぐんにゃりしてモフモフして、酔った人間の認識力では完全に『猫』だった。お前も一人か、とか呟きながら懐に入れると、喉を鳴らして擦り寄ってきた。
家に帰って古着で即席の寝床を作り、そいつを横たえて俺も寝た。
で、朝目が覚めて、これがどうやらただの猫じゃない…ていうか猫じゃないかも知れないことに気がついた。
「……あの、餌皿に入っている黒いのは」
「……焼き海苔」
「海苔っすか!?猫って海苔食べるんすか!?」
「海苔だけじゃない。黒いものなら何でも食べる。チョコとかも」
「色で!?」
なんか変なこと云い始めたぞこいつ!?
「ま、まぁそういう猫もいるんでしょうね…で、猫どこですか!?」
「それが…俺にもわからない」
「なんで!?」
「……隠れるんだ」
「猫、ですからね。狭いところも好きでしょう」
「いや、壁に張り付いて…保護色、になっていてな。
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ