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真田十勇士
巻ノ三十五 越後へその十一

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 幸村主従は上田から越後に向かうのだった。彼等が越後との境に来た時に見送りの家臣達が幸村に言った。
「ではです」
「我等はそろそろここまでです」
「越後との境の越後の方に上杉家の方々がおられます」
「そこでお別れです」
「わかった」
 幸村は彼等に確かな声で応えた。
「これまでご苦労だった」
「勿体なきお言葉、では」
「越後でもお元気で」
「そしてまた会いましょうぞ」
「上田に戻られた時に」
「その時は上田の酒を飲もう」
 幸村は見送りの家臣達に微笑んでこうも言った。
「存分にな」
「ですな、その時は」
「上田の酒を心ゆくまで楽しみましょう」
「やはり我等はここの者」
「この地の酒が一番ですな」
「越後は酒が美味いと聞くが」
 それでもというのだ。
「やはりその時は上田の酒が欲しくなろう」
「では、ですな」
「その時を楽しみにして」
「そうしてですな」
「今は暫しのお別れですな」
「だから笑顔で別れよう」 
 永遠の別れではなく再開の時を楽しみに出来るからというのだ。
「また会おうぞ」
「はい、そうしましょう」
「ではお元気で」
 家臣達も幸村の言葉に自然に笑顔になっていた、そして。
 一行はその越後との境に来た、すると。
 そこに上杉の兵達が待っていた、それにだった。
 その先頭にいる黒い鞍と鐙、手綱を乗せた黒い馬に乗っている黒い服の男を見てだった。真田の赤い服の家臣達は驚いた。
「まさか」
「あの御仁は」
「そのまさかの様じゃな」
 幸村は落ち着いていたがそれでもこう言った。
「拙者もまさかと思った」
「はい、あの方は」
「まさに」 
 皆驚いていた、まさにその者こそがだった。


巻ノ三十五   完


                     2015・12・2
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