第百二話
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よほど大人だ。そんなことを心中で愚痴りながら、あまり言いたくない方を観念して白状する。
「……床屋」
「は? 床屋?」
ようやくぼそりと呟いた言葉に、心底理解できなさそうなリズの疑問の声が重なった。
「床屋っていうよりひげ剃りか。だって怖いだろう……首に抜き身の刀向けられてるのと同じなんだ……」
「あー……じゃあ、髪のカットはカットだけみたいなとこで?」
床屋といっても正確には――ひげ剃りという過程について。微妙に納得したような呆れたような、そんなリズの表情がころころと千変万化していく。
「そうだな。美容室とか魔境」
「魔境ってあんた……でもなんか、わざと変な話して、本当のははぐらかされた感じよねー」
「っ」
どこかの探偵のように手を顎に置いて考える動作をしながら、俺を下から覗き込んでくるリズの桃色の瞳に、心を見透かされているようで目を逸らす。そんな俺の動作に勝ち誇ったリズが、腕を組んで勝利したようなポーズを取るのを見て、やけ酒のようにジュースを飲む。
「……床屋が苦手なのは本当だよ」
「ま、今はそれでいいでしょ。これからおいおいと、一緒にいるんだから。お互――」
「お互いにな」
先んじてそう言い放つと、少しだけリズが椅子ごと近づいてきた。ゆったりとした空気が支配する中――視界の端に野武士のような顔が映る。
「……なんだクライン」
「んな顔されても、オレだって好きで来たわけじゃねぇっての。そこのリモコンに用があるんだよ」
あまりそういった感情を思っていたつもりはなかったが、どうやら表情には出ていたらしい。相変わらず不便な世界だと思いながら、クラインが指差していた先を追うと、机の上にリモコンが置いてあった。それをクラインに渡してやると、すぐさま窓に向かってスイッチを押す。
すると雪景色を映していた窓はテレビ画面のような平面に変わり、窓がよく見える席に座っていた俺たちは、少し離れたソファーへと席を移る。キリトたちの家の窓は、スイッチ一つでテレビにもなるとのことで。
「あーっ! クラインさん、外見えないじゃないですかー!」
「うっせ、どうせ誰も見てなかっただろ」
「それは窓際でショウキさんとリズさんがイチャつい――ふぎゃっ!」
しかし当然テレビ画面になってしまえば、外の景色は見ることは出来ない。そうクラインへの抗議をした――ついでに、余計なことまで口走り始めたシリカに、リズの上方からのチョップが炸裂する。
「そろそろセブンちゃんの年末ライブなんだぜ? 聞いてみろって!」
「ああ、いい歌だよ」
そう言ってリモコンを操作するクラインとルクスが勧める中、窓だったテレビ画面いっぱいにライブ用のスタジアムが
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