第二章
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「この国だ」
「そうですか」
「今にも滅ぶであろう、いや」
曹奐はここで自分が言った言葉を訂正した。
「もう既に滅んでいるな」
「既にですか」
「晋王がいる」
司馬昭のことだ、宰相である。
「最早魏は魏ではなくだ」
「晋ですか」
「あの国になっている、そして蜀は晋に滅ぼされたのだ」
魏ではなくというのだ。
「何しろ朕は何も知らなかったのだからな」
蜀に兵が送られたことも滅ぼされその後で叛乱が起こったこともだ。
「全てな」
「では」
「そしてだ」
さらに言うのだった。
「それがすぐに実際のものとなろう」
「魏が実際に」
「滅ぶ、その時はな」
まさにというのだ。
「近いであろうな」
「左様ですか」
「皇帝が廃され弑逆されているのだ」
先の二代の皇帝はだ、これこそがまさに今の曹家の状況だった。
「朕もそうなるやもな」
「その様なことは」
「よい、どうせもう魏は魏であって魏ではないのだ」
実質的には晋となっているからというのだ。
「そうなっても不思議ではない、その日が来るまで生きていられればよい」
「皇帝であっても」
「皇帝は政を見て治め兵を持ち動かすものだ」
それこそ即ち皇帝だというのだ。
「そうした意味で朕は皇帝ではなく」
「魏もですか」
「既にない」
そうなってしまっているというのだ、そして実際にだった。
蜀が滅びその後で司馬昭が死にその子司馬炎にだ、曹奐は彼の家臣達に勧められもっと言えば強いられて禅譲を行なうことになった、そして禅譲の結果魏は滅び晋が起った。しかし曹奐は司馬炎の賓客として王に封じられたがこのことについてこう言った。
「命があるだけでなく王に封じられるとは無上の幸運だ」
むしろ皇帝の座にあった時よりも落ち着いた笑顔での言葉だった、こうして曹奐は皇帝の宮を永遠に後にした。彼が振り返ることはなかったという。
この魏から時代はかなり下がり明の頃だ、朝廷の官吏達は主のいない皇帝の座を見て途方に暮れていた。
「今日もか」
「万歳翁は朝廷に出られぬか」
「一体何時出られるのだ」
「万歳翁が政を見られなくてどうする」
「兵を動かすのをどう決められる」
「万歳翁が政を行われず軍のこともご存知なければ」
「国は動かぬ」
「実際にあらゆる政が止まっているぞ」
彼等はこう言って困り果てるばかりだった、明の朝廷は皇帝が出て来ない為どうしようもない有様となりあらゆる政が行われなくなっていた。万暦年間のことである。
史書に明は万暦帝の頃に滅ぶとある。、実際に明はこの皇帝がいた万暦年間にあらゆる政が滞り腐敗が進みその結果内に叛乱を引き起こしてしまいそれによって滅んだ。皇帝である万暦帝の二十年以上に渡る朝廷に出ない愚行によってその種が蒔かれてし
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