第一章
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炎天下
沖縄の夏は暑い、このことは日本の誰もが知っていることだ。
だがこの時真喜志安奈は難しい顔で外を歩いていた、そしてだった。
共に歩いている彼氏の嘉数令にだ、こう尋ねた。
「あのね」
「ああ、暑いよな」
「凄くね」
首を傾げさせての返事だった、安奈の黒いショートヘアンにも髪の毛はまだ汗はかいていないが小柄な小麦色の身体には汗が滲んでいる。白いシャツにも汗が付きはじめていてだ。長い睫毛の細い目にも汗が入ろうとしている。青い半ズボンの涼しさに感謝もしている。
それでだ、膝までのズボンをラフに穿いている茶色がかった髪を短く刈っている大きな目を持つ背の高い令にだ、こう言ったのだ。
「驚く位にね」
「今日は特にな」
「暑いわね」
「ああ、本当にな」
「それでよ」
眉を顰めさせて問う安奈だった、二人が歩いている道もその周りの緑も蜃気楼の様に熱気でゆらゆらとしている様に見えている。
「何でこの日になのよ」
「外に出てか」
「私達歩いてるのよ」
「だからそれはな」
令はその薄い唇で自分より二十センチは低い安奈に顔を向けて言った。
「これから凄い場所に行くからだよ」
「海?」
「まあな」
「海に行って泳ぐの?」
「泳ぐかっていうとな」
「違うの」
「そうした場所じゃないんだよ」
夏の海といってもというのだ。
「そうした場所じゃないんだよ」
「正直ね」
安奈は汗が果てしなく流れるその顔で言った。
「これだけ暑いとね」
「泳ぎたいか」
「ええ、海で泳いでね」
そのうえでというのだ。
「すっきりしたいわ」
「まあこういう日はな」
「夏休みだしね」
二人は中学生だ、八月に入ったばかりのまさに暑い盛りだ。
「好きなだけ泳げるわよ」
「そうだな、けれどな」
「それでもっていうのね」
「今日は泳ぐんじゃなくてな」
「他のところに行くの」
「いい場所にな」
「変な場所じゃないわよね」
いい場所といってもとだ、安奈は令に眉を顰めさせて問い返した。
「別に」
「何でそう言うんだよ」
「だっていい場所とか聞いたら」
それは令にとっていい場所であり安奈にとってはというのだ。
「そうした場所じゃないわよね」
「こうした日にわざわざ歩いてか?」
「そうした下心があるのならっていうのね」
「ああ、とっくにだよ」
それこそというのだ。
「俺の家に呼ぶか御前の家に行ってな」
「クーラーの効いたお部屋の中でっていうのね」
「やるだろ」
「この前のキスもそうだったしね」
「そうだよ、だからな」
「そういうつもりじゃないのね」
「そんなつもりだったら今日は外に出ないさ」
あまりにも暑いからだというのだ、沖縄で生まれ育っている
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