第一章
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ナイチンゲール
神楽坂智和教授はアイルランドのアルスター地方のある村にこの国の文化風俗のフィールドワークに来た時にだ、村の老人にこんなことを話された。
「バンシーという妖精がいますね」
「はい、この国には」
こう教授に話した。
「人が死ぬ時に泣く女の妖精です」
「幽霊でしょうか」
教授はこう老人に問うた、丸い形の鼻がある細面で知的な輝きを放つやや切れ長の黒い目を灰色の目の老人に向けながら。
「前から思っていたことですが」
「貴方がですね」
「はい、アイルランドの妖精を研究している中で」
教授の専門はアイルランド史であり日本ではそちらの権威だ、そしてアイルランドの民俗学も研究していて妖精についても日本では有名なのだ。
「その説を読みましたが」
「そうですね、バンシーはです」
「実際にですか」
「幽霊かも知れません」
老人もこう答えた。
「私もそう思う時があります」
「そうですか」
「ただ」
「ただ、とは」
「バンシーは色々言われていまして」
その人が死ぬ時に泣く妖精はというのだ。
「最初から妖精だったともです」
「言われていますか」
「そうです、そしてこの村にはです」
老人は教授の顔と学者にしては引き締まった長身を包んだスーツ、黒く短く刈った髪の毛等も見ながら彼に話した。
「もう一つ言い伝えがあります」
「バンシーの他に」
「はい、この村で生まれ長く生きた者が死ねば」
その時はというのだ。
「その時にナイチンゲールが啼くといいます」
「ナイチンゲールですか」
「はい、あの鳥が夜にです」
啼くというのだ。
「そう言われています」
「それは不思議な話ですね」
「この村で生まれ」
老人は教授にさらに話した。
「そしてこの村で育ち生きて」
「そして死ねば」
「その時にです」
まさにというのだ。
「夜に啼くといいます」
「それはまた不思議ですね」
「あくまで言い伝えです」
ナイチンゲールが啼くことはというのだ。
「実際に聞いた者はいません」
「そうなのですか」
「はい、ただ」
「ただ、ですか」
「私はこの村で生まれました」
老人は教授に自分のことを話した。
「この村で育ち」
「生きてこられましたか」
「ですから」
「ではお亡くなりになれば」
「若しかしたら」
こう前置きしてだ、老人は教授に話した。
「啼くかも知れませんね」
「そうですか」
「夜に」
「そうなのですか、しかし」
教授は老人の話を聴き終えてだ、そのうえでこう彼に言葉を返した。
「人は必ず死ぬものですが」
「こうして今実際にお話している相手がですね」
「そうなることはです」
「よく思われませんね」
「どうしても」
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