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私は町の何でも屋
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第一章

                       私は町の何でも屋
「じゃあ旦那、頼むよ」
「こっちもね」
「ああ、わかってるよ」 
 愛想のいい顔の男が店の客達に応えていた。ここはスペインの港町セヴィーリア、散髪屋である。
「髭を剃ってくれよ」
「こっちは髪を切ってくれ」
「宜しく頼むよ」
「すぐにね」
「わかってますよ。いやあ、今日も忙しい」
 彼は洒落た服を着て店の中をあれこれと動き回っている。鋏に剃刀を巧みに操りそのうえで客の髪や髭の手入れをしていくのだった。
 その中でだ。彼は店の若い男に言われた。
「フィガロさん」
「何だい、マゼット君」
「頼みが来てますけれど」
 その青年マゼットはこうフィガロに話すのである。
「いいですか?」
「何だい?手紙の代筆かい?」
「はい、それです」
 まさにそれだというのである。
「それでですね」
「まだ依頼が来ているのかい」
「手術の依頼です」
 今度はそれだった。
「それを御願いするとのことです」
「手術っていうと」
「はい、カストラートのです」
 男の子を去勢してそれで喉が発育しないようにする。そうしてそのままの声で歌わせる。ナポレオンが禁じるまで欧州の歌の花形であった。
「それの手術です」
「わかったよ、じゃあ後でね」
「後で、ですか」
「夜にしよう」
 手術はその時だというのだ。
「あれは時間がかかるからね」
「そうですね。とても」
「そう、とても」
 また話すフィガロだった。
「今はこっちが忙しいしそれに手紙だよね」
「代筆を御願いしたいと」
「それもしないとね。恋文かな」
「そうだった筈ですよ」
「よし、じゃあすぐに書けるな」
 フィガロはそれを聞いてすぐに述べた。恋文の代筆の依頼はかなり多い。だから慣れているのである。そういうことなのであった。要は慣れである。
「仕事が終わればだ」
「すぐにですね」
「そう、散髪の仕事が終わればな」
「わかりました、じゃあお手伝いしますね」
「頼むよ。ただ」
「ただ?」
「手伝って欲しいことがあるんだ」
 こうマゼットに言うのである。
「それはいいかな」
「僕にですか」
「実は他にもう一つ依頼を受けているんだ」
 彼が言うのはこのことだった。
「もう一つね」
「っていいますと」
「猫を探して欲しいらしい」
「猫をですか」
「そう、モンテス夫人の飼い猫がいなくなったんだ」
「ああ、あのドラ猫ですか」
 マゼットはそれを聞いてだ。すぐに頷いた。
「またいなくなったんですか」
「奇麗なメス猫を見て何処かに行ったらしいんだ」
「今丁度発情期ですしね」
「だからね」
 それでだというのである。猫が家出するにはよくあることだった。

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