Side Story
少女怪盗と仮面の神父 6
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き。
代わりに、脱いだ靴を空箱の上に乗せて扉を閉める。
後は夕食の時間に合わせて化粧と髪を整えれば、外見の準備は終わり。
重要なのは、ここからだ。
カーテンと窓を開け放ち、強めに吹く海風を室内と体内に呼び込む。
今なお明るい空を見上げ。
目蓋を閉じてから、深呼吸を数回くり返し……唇を引き結んだ。
(私は折れない。私は挫けない。私は誰より優れた足で駆ける風。弱き者の幸福を祈り、ひび割れた大地の崩落を繋ぎ止める三つ葉『シャムロック』)
怪盗シャムロックがどんな場面に遭遇しても冷静に動けるよう、仕事前に必ず行う自己暗示。そして、脳内で描いておく何通りもの未来予想図。
顔見知りに囲まれた『戦』まで数時間。
今回は特に、強い意思と鮮明な可能性の構築を必要とする。
極限まで集中力を高めないと、わずかでも迷いを残せば命取りになる。
(夜の闇に偽りを纏え。人の目に飾られた花の姿を焼きつけろ。目的はただ一つ、海賊が教会に隠した指輪の奪取!)
覚悟は決めた。
もはやどんな恐怖も罪悪感も、怪盗の足枷にはならない。
「……あんな奴らには絶対、壊させたりしないからね」
窓枠に両手を預け、海へ向かってなだらかな斜面に建ち並ぶ木造二階建て家屋の群れを見つめる。
悪党の害意なんかで、ここに住む村人が一人でも欠けたりしないように。
その為に行くんだと、自分自身に強く言い聞かせながら。
世界が夕焼け色に染まるまで、じぃっと見つめ続けた。
人は、時として『当然』というものを忘れる。
近くにあればあるほど、何故か見失ってしまう。
この時のミートリッテが、まさにそうだった。
本当に冷静で広い視野を持っていれば気付けた筈の『当然』が。
自身の足下で、鋭い牙と爪先を磨いていることを。
彼女はまだ、知らない。
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