Side Story
少女怪盗と仮面の神父 6
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たりの壁をぶち抜く勢いで階段を駆け上がった。
「……っと。いかんいかん」
与えられている部屋の扉を乱暴に閉める寸前。
隣の部屋に居るであろうハウィスの知り合いを驚かせてはダメだと、腕を急停止させた。
極力静かに閉じて、こぢんまりした正方形の室内と向き合う。
正面に、空を映した四角い窓と白いカーテン。
その右隣に、焦げ茶色のクローゼット。
左隣には、四つ足で支えられた木製のベッド。
ふかふかな枕元には、お気に入りの『くらげタン人形』が鎮座している。
『くらげタン』とは昔、潮流の影響でネアウィック村の海岸全体がくらげだらけになった事件を期に、ネアウィック村を象徴する旗印として作られたマスコットだ。
青いカサの下に、口腕を象った白く長い四本の棒が伸びていて、とにかく全体が丸っこい。カサの上部に付けられた、本物のくらげには無い、黒くてつぶらな瞳も、妙に愛らしい。
もっとも。
マスコットとしては、くらげを売りにしたって人や物は集まらないと、早々に放置された哀れな経歴の持ち主ではあるのだが。
「ただいま、くータン!」
ベッドに飛び乗って転がり。
引き寄せたくらげタン人形のカサへと頬をこすりつける。
布自体は柔らかでも滑らかでもないが、みっちり詰め込んだ綿にふんわりもこもこと押し返される感覚は、なんとも心地好い。
「ああー……癒されるぅー……」
すりすり、すりすり。
殺風景な部屋を飾る唯一の華を思う存分愛でて……
くらげタンに埋まったまま くわっ! と目を開く。
(……あ、危なかった……癒し効果のせいで、必要な準備まで忘却の彼方へ吹き飛ばすところだったわ!)
帰ってきたのは、くらげタンに癒される為ではない。
夕方の『戦』に万全を期す為だ。
非常に名残惜しいが、くらげタン人形を枕元に置き。
紺色の絨毯へ足裏を降ろして、のそのそと立ち上がる。
雇い主と同じ作業服のままでは話にならない。
クローゼットを開いて中を漁り。
手持ちの服の中では一番女の子らしい、薄黄色のワンピースを取り出す。
隣に掛けてあったネグリジェの破れた裾を見て、無性にイラッとしたが。
今はどうしようもないので、そのままそっとしておく。
手早く着替えて作業服をしまい。
クローゼットの下方に三つ積んである、フタ付きの箱の一番上を開いた。
中身は、ワンピースと同じ色の花飾りが付いた、可愛らしい女物の靴。
街へ買い物に行く時や、お祝いごとがある時なんかに着なさい、と言ってハウィスがくれた一式だったが。
「こんな風に着るとは思わなかったよ。ごめん、ハウィス。親不幸者で」
手にした靴を揃えてクローゼットの外側に置
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