Side Story
少女怪盗と仮面の神父 6
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「ただいまー！」
「……え！？ ミートリッテ！？」
バターン！ と豪快な音を立てて扉を開くと、直ぐ様酷く驚いた様子のハウィスが二階から顔を覗かせた。階段の手摺に左手を添えて、ととと……っと小走りで下りてくる。
「どうしたの？ 今日は遅くなるって言ってたわよね？」
「ちょっとね、予定を変更したの。夕方にまた出掛けるんだけど……あ。これ、ピッシュさんがくれたんだよ。ハウィスによろしく、だって」
「まぁ！ ピッシュが！？」
後ろ手に扉を閉めてから作業服のポケットに入れておいたマーマレードの小瓶を手渡すと、ハウィスの目がパチパチと小刻みに瞬いた。
どうやら、ミートリッテよりずっと長く付き合っているハウィスでも、ピッシュが物をくれるのは珍しいと思うようだ。
「明日の朝食は一段と豪華になるね。ピッシュさんお手製の貴重な品だもの、ゆっくり味わって食べなくちゃ。うふふ、楽しみ！ ……伝言があるなら、感想と一緒に伝えるよ？」
水を掬う形で揃えたハウィスの両手にちょこんと乗っかる、透き通った黄金色の小瓶。その中でオレンジの薄い皮がゆらりと小さく動く。
「そうね……「ありがとう」と「これからも愛娘の世話をよろしく」って伝えてくれる？」
「承りましたわ、お母様」
にこっと笑って答える娘に、ハウィスはぴくりと肩を竦めた。
「……何故かしら？ 娘と呼ぶのは良いのに、母と呼ばれるのは微妙だわ」
「三十代半ば独身の意地？ そろそろ好い人を見付けなきゃ、本格的に行き遅れるよー？」
「んもう！ 意地悪な娘ね！」
「あはは、ごめーんっ」
冗談口も上等なミートリッテの頭を小突きながら、艶やかに咲き誇る薔薇の微笑みを浮かべるハウィス。
分かってる。
村一番の人気者が行き遅れるなんてありえない。
彼女は、その気になれば今日にでも落ち着く所に落ち着ける器量持ち。ただ、ハウィス自身にその欲求が無いだけだ。
一時は娘の存在が枷になっているのかとも思ったのだが、お酒にほろ酔えば飛び出す「家事と子育てを押し付けられるだけの結婚なんか、面倒臭いし鬱陶しいし煩わしい」「男は釣りを楽しむ生き物で、釣った魚そのものには拘らない。造形美と稀少性と難易度に心踊らせて、他人と比べまくって、デカイ獲物を捕まえたぞーとか。下らない見栄と顕示欲と自己満足に利用されるのはまっぴらだわ！ 私は便利機能が付いた装飾品じゃないってーの！」等と有刺鉄線ばりに刺々しい言葉を真顔で連発されては、苦笑いするしかない。
年齢を絡めた現実的な身固め話は、娘の反応で妄想を楽しんでるとしか思えない、いつもの恋愛話に対する仕返しだ。
結婚願望が無くても年齢を気にしてしまうのは女の性。たまには面白くない話を振られる者の気分を味わえば良い。
大人の余裕で返されるの
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ﾍﾟｰｼﾞ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿ｻｲﾄ〜
利用規約/ﾌﾟﾗｲﾊﾞｼｰﾎﾟﾘｼｰ
利用ﾏﾆｭｱﾙ/ﾍﾙﾌﾟ/ｶﾞｲﾄﾞﾗｲﾝ
お問い合わせ
2024 肥前のﾎﾟﾁ
しおりを解除