三十四話:話をしよう
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てられた少女を思い、目に涙をにじませる。だが、父親のことを悪く言ったりはしない。それは自分自身が父親に複雑な思いを抱いているのもあるが、一番の理由は選べなかったからである。
自分はどちらかを犠牲にするなんてことはできなかった。それなのに選んだ人間を非難することはできないという理性が働いたからである。
「でもな、そこに正義の味方が現れたんよ。世界も少女も両方救ってみせる本物の正義の味方が」
どこか懐かしそうに目を細めて語るはやてを新人達は黙って見つめ続ける。何を思っているのか。何を感じているのかは本人以外に分からない。それに他人が踏み込んでいい領域でもないだろう。
「少女は正義の味方に救われて世界から危機も去って物語はめでたしめでたしで終わりや」
「ハッピーエンドで良かったです……」
「でもな、物語はその後も続くんや。物語の続きってのはええことばっかりやない」
少女も世界も救われたハッピーエンドに胸を撫で下ろすキャロ。しかしながら物語は、人生というものはそこで終わりではない。ハッピーエンドのその裏側を、救われた人間のその後を想像したことがあるだろうか。本当に誰一人として犠牲になっていないと言い切れるのだろうか。少なくともはやての物語は完全無欠というわけにもいかなかった。
「娘を犠牲にすることを選んだ父親は娘が救われた後にどうなったと思う?」
「それは……」
娘の無事を喜んで再び仲の良い親子に戻った? もしもその勇気があれば簡単にそうなることが出来たかもしれない。だが、その勇気がなかった場合。娘を犠牲にしようとした罪悪感に耐えきることが出来なかった場合、どうするだろうか。自分の行いは全て間違いだったと突き付けられた父親はどうなるだろうか。
「逃げた。娘の言葉も聞かんと罪悪感に襲われて逃げた。自分のことを救えた人を殺してきた人殺しだって言うて何もかもから逃げた」
逃げたという軽蔑的な言葉を使うがはやての顔は悲しみと慈悲に満ちていた。憐れんでいた。逃げるしかできなかった養父のことを。自分の罪深さに絶望することしかできずに、縋るものを全て破壊しつくされた男の生涯を。
「最高の結末を導いたはずなのに全ての人が救われたわけやなかった。奇跡が起きたからこそ絶望した人もおった。これはそういう話や」
「でも…でも……それならどうしたらいいんですか? 結局誰かが悲しむしかないならどうしようもないじゃないですか」
スバルがここに来て初めて声を上げる。それは全ての人に笑っていてほしいというあくなき欲望から訪れる苦悩。自分の目の届く範囲の人に笑っていてほしくて全てを救おうとする。だが、この世は全て等価交換。
誰かの笑顔を守るためには誰かに絶望を味合わせなければならない。救えば救うほどに誰かが絶
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