第八十三話
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度への加速をしたところで果たして勝負になるか? 攻撃を回避したとしても、限界速度によるダメージを受けて、結局、俺は自爆するしかなさそうだ。
しかし、諦めるわけにはいかない。
唯一の勝利への可能性は、先刻、漆多のラッシュをかわし、それどころかあの罠によって包囲された空間から移動した現象だった。
あの現象を再度引き起こすことができるなら、もしかするかもしれない。
どうやる、どうやった、どうすればいい?
どのような経緯であの能力が発動したというのか?
必死であの現象を解析しようとする。
解っている事は絶体絶命の状況下だったこと、それだけだ。
その瞬間、俺は駆けていた。
柱の森の中へ。
張り巡らされた罠を慎重にかわして。
ゆっくり動いたからはっきりと見えた。張り巡らされた鋭利な糸を。
ここで襲われたら、死ぬな。間違いなく死ぬ。漆多の爪で切り刻まれるか、逃げようとして張り巡らされた鋭い糸にトコロテンのようにされてしまうのか?
どっちにしてもかなり痛そうだ。
ここのところ、ずっと痛い思いばかりしている。いい加減ウンザリだし逃げ出したいよ。
さあ、俺は追い込まれたぞ。次の一手で詰む。
どうしてだか恐怖は感じない。感覚が麻痺してるのか?
俺の行動をさっきからじっと見ていた漆多がついに動く。
中腰に体を沈め、吠える。
背中の二つの瘤が沸騰したかのように沸き立ち、渦巻く。
同時に、首筋に開いた左右4つずつの穴から水蒸気の様なものが再び噴き出す。その勢いは先ほどとは比較にならない。
その現象で、今思い出した。亜酸化窒素噴射方式で圧倒的スピードとパワーを生み出すドラックレースで使うニトロ。そして、噴出した白煙は、ニトロが稼動するとき、周囲が一気に冷やされる現象であることに。
「ダイレクトポート、オン! 」
変形した顔に慣れたのか、今度の漆多の喋りはキチンと聞き取ることができた。
一気に距離を縮めてくる漆多!
ニトロタンクのデュアルパワーを使用した急激な加速、そしてあの爪での攻撃。破壊力は、もはや比較対象がこの世界に存在しないレベル。
回避不可能、防御力無視の攻撃が……来る。来た。
避けることも、防御することも圧倒的攻撃の前では無意味だ。ならばどうする?
どうする?どうするどうする?
「攻めるしか、ない」
即答だった。
刹那、時が静止する。
完全に。
思考するより早く、俺の体が漆多の体の直ぐ前にたどり着いていたんだ。
漆多が来たのか??
否―――
そうじゃない、俺が動いたんだ。
あたかも静止した世界を俺は駆けている。
張り巡らされた糸も、障害
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