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異界の王女と人狼の騎士
第八十二話
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 この能力を使い続けるのもあとどれくらい持つか。おまけに怪我をした左腕からの出血が止まらないや。疲労と出血でまじでクラクラしてきてるや。
「やばいかな」
 そんな弱音を吐いてしまう。
 
 人狼化した巨大な生き物は俺の前方5メートル!
 ちょうどコンクリート柱の森の入口に立っていた。
 罠の状況を確認するように左右をゆっくりと見回した。そしてオオカミの顔をしているのに、それが笑ったように見えた。

 さて、どうする?

 一気に来た!
 遮蔽物や足場の悪さなどお構いなしに、突進してくる。咆哮を上げ、猛然と襲いかかってくる。地理的条件を全て頭に叩き込んでいるような無駄の無い動きだ。
 コンクリート柱を利用して指弾を交わそうとしたのが裏目に出てしまった。今更ながら俺の判断ミスだ。だけど済んだことを嘆いたところでどうにもならない。 
「ちっ」
 俺は舌打ちをし、加速度を更なる領域まで引き上げるしかなかった。
 足場の悪さ、トリッキーなワイヤーの配置のため、速度が殺される。漆多の爪撃を食らえば無事ではすまない。コンクリート柱を抉るような威力だからな。遅い加速度では大きく移動しないと攻撃を交わせない。必要最小限度の移動で済ますにはさらなる高みの領域で迎え撃たなければならない。

 Quintuple……。

 世界の色がさらに変化する。限界移動速度の増加による副次的作用により、動体視力が劇的に向上する。
 漆多の動きが見える!
 動きを最小限に抑え、ギリギリのタイミングで、かつ最小限の動きで攻撃を回避していく。
 移動は特に最小限だ。不用意な動きは仕掛けられたワイヤーの餌食になるから特に注意をしつつ見切る!
 しかし、攻撃は執拗かつ的確だ。際どく避けるからほんの一瞬の油断が命取りになる。回避しながらも体にダメージを受けているのがわかる。ごくごく浅くではあるけど、攻撃を交わした部位の皮膚が斬られたように裂ける。
 風圧によるカマイタチ現象なのか?
 否、そんな現象は存在しない。……その原因はすぐに判った。
 漆多の全身を被った体毛が俺の皮膚に当たって切り傷をつけているんだった。つまり、あの銀色に輝く体毛は想像以上の硬度を誇り、予想を遥かに超えて鋭利だったってことだ。
 
 漆多の繰り出す攻撃は、一度駆け抜けると柱に手をかけ、それを支点にして外周を一蹴してターンし、別の柱まで走りそこでまたターンをする。そして隙を見ては攻撃をかけてくる。それを複雑に何度も何度も繰り返す。
 右へ左へ前へ後へと目まぐるしく攻撃が展開される。
 俺は休む間もなく5倍の加速度を維持させ続けられる。それは次第に俺の体力を奪っていっている。
 視界の中でさらに驚愕するものを見てしまった。あいつは柱の周りを周回しながら、自分の体毛を引き
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