第八十二話
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の直ぐ側で、今まで見えなかった物が見えていた。
俺の血で染められることで実体化した、柱と柱の間に張られたよく見ないと見えない細さの「糸」があったんだ。ちょうど俺の胸辺りの高さに張られている。
止まらずに突っ込んだら、真っ二つだった……な。
背後で咆吼が響く。
奴がもうそこまで来ているんだ。
俺は慌てて張られた糸をくぐってさらに奥へと逃げるしかなかった。外の場所へ逃げようとすると、また石つぶての乱射を受けてしまうからな。もはや逃げ場はそこしか無かったんだ。
俺は隠れて柱にもたれかかる。
左手が痺れるような感覚だ。ブルゾンがじっとりと湿り、重さを感じる。それだけで分かった。怪我は全く回復していない。
王女がいたときにはあり得なかった状態だった。
そしてそれが今の俺の置かれた状態をしめしていたんだ。
もはや、この戦いで左腕は使えない。
漆多の方を見た。
狼の顔をした漆多はそんな姿になっていても、今、アイツが何を思うかが分かてしまったんだ。
そして、それは、本来は俺にとっての厄災でしかなかった。
俺の周りは無数のコンクリート柱の森。俺はその中に逃げ込んだつもりだった。
周囲を見回す。
柱は無秩序に並んでいる。地面への埋まり具合で違うけど、高さはだいたい3〜4m。その柱と柱の間、それもあちこちだ、に光の加減で時々なんとか見えるものがあった。頼りないほど細い細い線。
それが先刻、俺の左腕をザックリと切り割いたあの鋭利な糸であることを。
―――気付いてしまったんだ。
必殺の罠を仕掛けた森の中に、俺が踏み込んでしまったことを。
これは罠だ!!
ここにいたら危険すぎる。
とにかくここから脱出すること。とにかく離れなければいけない!
そう思って動こうとした時、俺の視界の中に人狼化した漆多が、異様なまでの圧迫感で現れていたんだ。
「遅かったか……」
思わず口に出てしまう。
これは本格的にピンチとなってしまった。最初からここでケリをつけるつもりだったんだ。指弾による攻撃はここに追い込むための布石でしかなかったわけか。
見えない糸で囲まれた檻の中に俺は閉じ込められてしまったわけだな。そしてその鉄格子は視認性がとても悪く不用意に触れると剃刀以上の切れ味で俺を切り刻む。だけどそれを恐れると漆多の攻撃を喰らってしまうということか。
金網デスマッチなんて児戯に過ぎないくらいヤバイ状況だな。檻の中に閉じ込められ、そこに血に飢えた猛獣を放された感じといったらいいのか……。まだそっちのほうがましだな。
それにしても……。さっきからずっと加速能力を使い通しだから、だいぶというか、本気でシンドイな。かといって止めてしまったら漆多の攻撃を回避することはできない。
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