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異界の王女と人狼の騎士
第八十一話
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て鼻柱が伸び出す。裂けた唇の奥からは鋭い4本の犬歯が生えてきているのが見えた。両耳も引き上げられるように、頭の上部へと移動していく。
 全身からは、骨が折れるような音、皮膚が裂けるような音が続く。
 もはや立っていることができなくなったのか、両腕を地面につき、四つんばいの姿勢になって絶叫を始める。
 地面を強く両手で掴む。
 想像を絶する激痛が彼を襲っているんだろう。それでも大きく見開いた眼は俺を睨み付ける。

 その瞳の色は、金色。
 まるで、魅入られたように俺は動けない。

「ぐべぼっ」
 いきなり口から大量の吐瀉物。その色は、どす黒い赤。

 赤、赤、黒、黒、緑、赤、赤、黒、黒。 

 激しく咳き込むと同時に、一瞬、縮んだと思うと、「どん」と爆発したかのように体が膨らんだ。その膨張はあまりに急激だった。音をたて、一気に衣類が引き裂かれて弾け飛ぶ!

 俺は、ただ圧倒されるしかなかった。

 そこには一個の肉の固まりが存在したんだ。
 
 ゆっくりと体を起こす、それ。ついには二本足で立ち上がる。

ゆらゆら

ザワザワ

 そこには、かつての貧弱でしかない人間、漆多の姿はどこにも無かったんだ。
  
 見上げるような筋骨隆々の巨漢だった。背丈は2メートルを軽く超えている。体の幅や厚みも圧倒的となり、体毛に覆われていても分かるその筋肉により、一つの岩の塊のように見える。体の上に乗った頭、それはもはや人間のものと呼べるようなカタチでは無かった。頭の上に尖った二つの耳。金色の双眸。それは内から光を得たように輝き、狼のようにつきだした鼻、かつての耳元まで裂けた口には鋭い牙が不気味に光る。だらりと伸ばしたごつい両腕の指先から伸びている手は巨大で、その先の爪は、狼というよりは戦闘に有利な熊のそれと同一だった。 

 2本足で立っている。

 その姿、形、態様、気……すべてが人のものではなかった。

 それは、狼だった……。

 否、それは、……人狼だった。


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