暁 〜小説投稿サイト〜
異界の王女と人狼の騎士
第七十九話
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
閃光が起こった。 
 俺は思わず眼を閉じてしまったんだ。

 ―――そして。

 俺は、ゆっくりと眼を開けた。

 そして、呆然とした。

 周囲の光景が、根本的な変貌を遂げていたんだ。
 先ほどまであった付近の緑色の木々や、少し向こうに見えたバラの花園。奥の方にあった巨大な温室。

 のどかな風景が全てが消えていた。

 今そこにあるのは、空虚な地平が遥か向こうまで広がり、大小様々な岩や石くれが転がる荒れ果てた黒い大地。
 そして、こんな世界には異質としか思えないコンクリートの無数の柱が地面に突き立てられた、あり得ない風景だったんだ。
 

 俺は上を見上げる。

 呆然とする。
 慄然とした。

 そこには、二つの月が昇っていたんだ。
 それは血を暗示するかのように真っ赤に染まっていた。

「何なんだ……これは」
 思わず呻く。これが結界?
 しかし、これまでの戦いで見た結界とは全く異質なものだった。これまでは外部からの侵入を防ぐためだけのものだった。しかし、今ここで施術されている結界は根本から何もかもが違う。違いすぎる。
 これじゃあ、天地創造じゃないか。さっきまであった植物園の風景がすべて消し飛び、いま眼前に展開される風景は異世界でしかなかった。
 幻覚ではないリアルな世界であるとするなら、これが地脈の膨大なエネルギーを得た力による結界の姿なのか……。

 いや、これは単なる幻覚だよ。そう自分を納得させようとするけれど、それはあえなく失敗に終わるんだ。
 なぜなら俺自身だって能力を発動させている。
 俺の眼を誤魔化すことなんて出来ないんだから。

 だから……これは現実なんだ。
 この世界は、悪夢のような光景だけれど、現実なんだ。

 だったら話は早い。これから行うことは、たった一つしかないんだから。
 世界がどのように変容したとしても、何も変わることは無いんだ。

「漆多、出てこいよ」
 姿は見えないけれど、この殺伐とした世界のどこかに漆多は隠れている。
「ずっと隠れているつもりなのか? お前に呼ばれたから来たんだ。さっさと顔を出せよ」

 しばしの沈黙……。

「一人で来たのか……」
 声がした方を見ると、そこには学ランを着た漆多が立っていた。ショッピングセンターの時と全く変わらぬ姿

だった。服だけは着替えたのか。
 そして俺と、その周囲を見回す。
「あの、偉そうなガキを連れて来なかったのか」

「今日は俺とお前だけの話だから、連れてこなかった。彼女には無関係の事だからね」

「ひゅううっ」
 妙な声を上げて俺を見る。ニヤニヤと笑ったかと思うと、
「ガキを連れてこないなんて、戦いを放棄でもしたのか? 月人」
 と、馬鹿にしたよ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ