第七十八話
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王女が落ち着いたの確認してから、俺は部屋を後にすることにした。
玄関を出る時には、いつもの王女に戻っていた。
そして、俺も、いつものように「行ってきます」と彼女に言うんだ。
バイトに出かける時と同じように。いつもどおり、帰って来ることが当たり前のことのように。
―――帰って来られる保障なんて、何一つ無い。
それでも王女は、いつもと同じく笑顔で送り出してくれたんだ。
時間の約束なんてしていないけれど、漆多は俺の到着を心待ちにしているのだろうか?
そんなことを思いながら、駅へと歩いて行くんだ。
時間は、まだ午後9時を少し回ったところでしかない。まだまだ宵の口だっていうのに、駅周辺には人がまばらにしかいない。それもみんな足早に立ち去っていく。駅前の店もいくつかは開いているが、ほとんど開店休業状態。飲食店ですら、外から見るかぎりでは店員が暇そうに外を見ているだけだ。
俺はポケットから定期券を取り出すと自動改札へと向かう。
視線を感じる……。
何気なく顔を上げると……何故かそこに柳紫音が立っていたんだ。
「紫音……どうしたんだ? こんなところで。あれ、この辺に塾とかあったっけ? 」
俺はあまりに唐突な彼女の登場に少し動揺した。
彼女は寮に住んでいるから俺の住むアパートとは全然方向が違うはずなんだ。それにこの辺りに学習塾は無かったと思う。そして、紫音が塾に通っているって事も聞いてなかった。
「ううん、こんな時だから塾も休校よ。……ちょっとこっちに用事があったから来てたの。今から帰るところよ」
見ると彼女は制服のままだ。学校からそのまま来たのか? 寮なのに門限とか大丈夫なんだろうか? いろんな疑問が沸く。
「殺人鬼が徘徊してるって時に、女の子がこんな時間に一人でふらついているなんて危ないよ。それにお前、寮に住んでいるよな。大丈夫なのか? 門限あるんじゃないの」
「門限は10時だからまだ大丈夫よ。それに寮母さんには、今日、両親と食事に行くって話しているから多分大丈夫よ」
と、笑顔を見せる。
「それより、シュウ君こそ、こんな時間にどこに出かけるの? モノレールに乗ろうとしてたみたいだけど……」
「いや、ちょっと用事がね。……そうだ、漆多に授業のノートを持っていってやろうって思ってね。電話したら今からなら大丈夫だからって言うからさ」
「そう? 漆多君って【おたふくかぜ】で休んでいるんじゃなかった? 腫れはもうひいたのかしら。確か先生がしばらくは休むって言ってなかったかしら。でも、そんな状態の時なのにわざわざ行くんだね。おまけに学校から不必要な外出は避けるようにって指示されているのに。ねえ……こんな時間に行かなきゃならないの」
想定外の紫音の登場に咄嗟に言い訳が浮か
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