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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十五話 敗戦
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ケンベルガー元帥の帰国を喜ばなかったら」
「…どうなる」

「内乱終結後、謀叛の嫌疑をかけるかもしれません。ミュッケンベルガー元帥がオーディンに帰国するまで一ヵ月半はかかるでしょう。内乱が終結している可能性は否定できません」
「しかし、彼になにが出来る。彼はまだ少将だぞ」
まだ疑っているな、キャゼルヌ先輩は。

「帝国軍の宇宙艦隊は全てが遠征軍に参加したわけでは有りません。本国にとどまっている部隊も数多くいます。彼らに万一の場合はヴァレンシュタイン少将に従えと言ったとすれば」

「可能なのか、そんな事が」
「彼らの多くはミュッケンベルガー元帥と共に戦った人間です。ミュッケンベルガー元帥が失脚すれば、彼らもただで済むかどうか。ヴァレンシュタイン少将の指示に従う可能性は高いと思います」
「…」

「それにリューネブルク少将がいます」
「…陸戦隊か」
うめくような声だ。
「陸戦隊と宇宙艦隊、彼なら十分に活用するでしょう。そうでもなければ、彼ほどの用兵家をオーディンに置く理由がわかりません。今回の戦いはミュッケンベルガー元帥にとって決戦だったはずです」



 私は、キャゼルヌ先輩の部屋を辞し、自分の部屋に戻った。紅茶を飲みながら考える。自由惑星同盟は今回の戦いで大きなダメージを負った。戦力的な面だけではない、国民の信頼の喪失もだ。これを立て直すのは容易ではないだろう。希望があるとすれば帝国が混乱してくれる事だ。そうなれば時間を稼げるかもしれない。二年、いや一年でいい。時間が欲しい。しかし帝国がそれを許すだろうか?

難しいだろう。帝国には人材が揃ってきているようだ。ヴァレンシュタイン少将もそうだが、今回の左翼を指揮した司令官、見事な艦隊運用だった。彼がいなければあそこまで損害は酷くはならなかったはずだ。殿も彼が勤めたということはミュッケンベルガー元帥の信頼も厚いようだ。

 それに比べて同盟の人事は酷い。政治家に媚を売る人間ばかり出世する。次の司令長官が誰になるか?まともな人選ならいいが、ロボス総司令官の方がましだった、なんてことになったら眼も当てられない。

本当にいいのはシトレ元帥が宇宙艦隊司令長官に降格する事だ。統合作戦本部長にはクブルスリーを持ってくれば良い。彼はどちらかと言えば実戦指揮官としてより戦略家としての評価が高い人物だ、適材だろう。

シトレ元帥が宇宙艦隊司令長官になれば、それだけで国民は軍に対する信頼を回復するだろう。軍内部も今回の事態に反省せざるを得ない。なんといっても統合作戦本部長が自ら降格して宇宙艦隊司令長官になるのだ。キャゼルヌ先輩に話してみようか。……話してみよう。もう一度先輩の所へ行って見るか。





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